小さいおうち

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本棚登録 : 3150
レビュー : 669
著者 :
まろんさん な行の作家   読み終わった 

いちばん頭の悪い女中は、くべてはいけないものを火にくべる女中。
並みの女中は、くべておきなさいと言われたものを火にくべる女中。
優れた女中は、主人が心の弱さから火にくべかねているものを、
何も言わなくても自分の判断で火にくべて、そして叱られたら、
わたしが悪うございました、と言う女中。

最初に奉公した家で小説家の小中先生に教わった、女中としての心得を忠実に守り
大切な奥様の秘密を、火にくべるかわりにそっと仕舞い込み、
そのせいで奥様と疎遠になっても、後悔も罪も一身に引き受けて生きたタキ。
その覚悟が、あまりにけなげで美しくて。

歴史の授業では、戦争に向かう陰鬱な時代と教え込まれた昭和初期を
オリンピックや万博への期待が高まる時代として
明るく生き生きと描いているのが新鮮で、うきうきと読み進めた前半。
読み終えた時、あの心躍るような明るさは、田舎から出てきた少女のタキが
夏の午後、白地に青い水玉模様のワンピースで飛び出してきた時子奥様を
眩しい光のように目に焼き付けた日から、世界のすべてを
奥様という光を通して見ていたからだったのだ、と気づくのです。

生まれた時から過ごした実家でも、リタイアして悠々自適で過ごす家でもなく
たった2畳の階段奥の自室をいとおしみ、奥様とぼっちゃんのためかいがいしく働いた
あの赤い屋根に白いポーチの小さいおうちだけが、タキの心の家。

そして、タキから奥様へと向けられた想いは
奥様の親友、睦子が抱いていた狂おしいほどの恋とも、
愛とも、献身とも、忠節ともどこか違って
たったひとつの光を眩しく仰ぎ見て、その明るさを翳らせるあらゆるものから
身を挺して守ろうとするような敬虔さを湛えていて、切なくなります。

タキ自身も掴みかねていたそんな想いを
奥様に恋していた板倉だけが静かに理解し、描いた絵が
小さな窓の中から、女性がふたり、手を繋いで外を眺めている
この本の愛らしい表紙だったのだと知ったとき、また新たな感動がこみ上げて。。。

心にしみる、忘れられない物語です。

レビュー投稿日
2013年1月15日
読了日
2013年1月13日
本棚登録日
2013年1月14日
21
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『小さいおうち』のレビューへのコメント

kwosaさん (2013年1月15日)

まろんさん!

そう!「敬虔さ」ですよね。
読後の解釈も人それぞれで、タキの秘めた感情を睦子と同じように見る向きもあるようですが、僕自身それには「うーん」ともやもやした気持ちを抱えていました。
まろんさんのレビューを拝読して
「それだ!」
おもわず声が出そうになりました。

突然の『イタクラ』の登場と、表紙を見返した時の感動と言ったら......

まっさらな気持ちでこの物語を読むことができて幸せでした。
そして、まろんさんとこの感動を共有できて嬉しいです。

vilureefさん (2013年1月15日)

私も大好きなお話です。
過酷な時代の小説の話なのに、まるで小さなひそやかなおとぎ話のよう・・・。

何より中島京子さんの文章のうまさには圧巻ですよね!

kuroayameさん (2013年1月15日)

この本、図書館で見かけて何度か手にとったものの、借りようか随分迷っていた作品だったので、レビューを拝見させていただきとても嬉しかったです♪。
いつも素敵なレビューを拝見させていただきありがとうございます★。
これは是非今週末借りてこようと思います。

まろんさん (2013年1月16日)

kwosaさん☆

ずっと気になっていたくせになかなか手に取れなかったこの本を
読むことができたのは、kwosaさんの魅力的なレビューのおかげです。
ほんとうにありがとうございました!

赤い屋根の小さいおうちで、あんなにも明るく生き生きと暮らしていたタキの姿を
本の中でずっと追いかけてきた人たちには
タキの奥様への想いを、単なる恋愛感情として片付けてほしくないなぁ、と思ってしまって。
kwosaさんがそう!と言ってくださったこと、とてもとてもうれしいです。
タキの想いごと、抱きしめたくなるような物語でしたね!

kwosaさんお薦めの本は、全面的に信頼しておりますので、
また素敵な本をぜひぜひ教えてくださいね(*'-')フフ♪

まろんさん (2013年1月16日)

vilureefさん☆

いつまでも余韻の残る、すばらしいお話でした。
vilureefさんもお好きだと知って、ますますうれしくなりました♪

タキが小さなおうちで明るくきびきびと働いているところは
本当に働きものの妖精のようで、まさにおとぎ話みたいでしたね。
またもや不勉強さを晒すようではずかしいのですが
私は中島京子さんも、この作品が初めてだったので
ぜひ他の作品も読まなくちゃ!と張り切っているところです。

まろんさん (2013年1月16日)

kuroayameさん☆

装幀がとても素敵で、見かけるとつい手に取りたくなってしまう本ですよね♪
私も読もうか読むまいかずいぶん迷っていたのですが
ブクログ仲間さんのおかげで読む決心がついて、
そして、読んでほんとうによかった、としみじみ思える本でした。
図書館で、待たずに借りられるといいですね(*'-')フフ♪

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