つむじ風食堂の夜 (ちくま文庫)

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本棚登録 : 4155
レビュー : 636
著者 :
まろんさん や行の作家   読み終わった 

つむじ風が扉の前でくるりくるりと廻っている、名無しの食堂。

万歩計に、行ってみたい場所というロマンを勝手に乗っけて
「二重空間移動装置」に格上げしてしまう帽子屋さん。

舞台の幕にぽつんと開いたふたつの穴からのぞく黒ビロードの袖口。
その袖口から出た手が操る、花や小鳥やワイングラス。

豆腐屋の「水門」を抜け、36段の急な階段を昇って辿り着く屋根裏部屋。
その部屋の中の、ふたごのような「雨の机」と「その他の机」。
その机で、エスプレッソ・マシーンが人口降雨機となる日を夢想する先生。

オレンジの果皮に電球の灯を反射させた淡い光で本を読む果物屋の青年。

ごめんなさいのかわりに階段の33段めにひっそりとオレンジを置き
お願い事をするのに上から物を言うのは失礼だから、と
ぺったんこの靴を履いて先生の部屋のドアをノックする奈々津さん。

映像や音や匂いが魔法のようにたちのぼって
いつのまにかつむじ風食堂の隅の席で、猫のオセロの背中を撫でながら
愛すべき月舟町の住人たちの会話に耳を傾けている私がいて。。。

どこか浮世離れした、温かく懐かしい記憶だけしっかりと刻んで
鋲で止めてあった形見の袖口という
かたちあるものは鮮やかに消し去ったお父さん最後の手品のように
読み手を不思議な時間に誘ってくれる、愛おしい本です。

レビュー投稿日
2012年9月3日
読了日
2012年9月2日
本棚登録日
2012年9月3日
17
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『つむじ風食堂の夜 (ちくま文庫)』のレビューへのコメント

takanatsuさん (2012年9月4日)

「映像や音や匂いが魔法のようにたちのぼって」
とても共感します!
登場人物もちょっとした小道具も、全てが愛おしいです。
本の中の文章全てが心地よく、おかしいわけでもないのに嬉しすぎて笑い出してしまう…吉田篤弘さんの書く小説は私にとってそんな存在です。
まろんさんの素敵なレビュを読んでとても幸せな気持ちです♪

まろんさん (2012年9月4日)

ワンシーンワンシーンを水彩画にして
お気に入りの額縁をつけて順番に飾っていきたいような
そんな素敵な物語ですよね!
ブクログがなかったらたぶん巡り会えなかった吉田篤弘さん、
ずっと追いかけていきたい作家さんになりました♪

まろんさん (2012年9月4日)

kara2sorakaraさん、コメントありがとうございます(*^_^*)

詩的な雰囲気が好きだったり
本を読むと頭の中で映像化してしまうのが好きだったりする方には
きっとお気に入りにしていただける本だと思います♪

永遠ニ馨ルさん (2012年9月5日)

さっそく読んでいただけたんですね!!(*´▽`*)!!

このお話には、木の床を靴で歩くような温かみある音がずっと流れている気がします。
まろんさんの素敵レビューから、以前読んだ物語のいろんなシーンがありありと甦ってきてまた読みたくなっちゃいました♪

まろんさん (2012年9月5日)

永遠ニ馨ルさん、
『それからはスープのことばかり考えて暮らした』の後にはぜひこれを、と
薦めてくださってありがとうございました♪♪♪
月舟町も、吉田篤弘さんも、ますます好きになってしまう1冊でした。

木の床を靴で歩くような温かみある音。。。うんうん、確かに!
そして、色でいったら
『それからはスープ・・・』の方は、柔らかなセピア色。
この『つむじかぜ食堂の夜』は、夜やエスプレッソの黒に、
月光やオレンジの果皮に反射する淡い光が射しているイメージでしょうか。
ほんとに素敵でした(*^_^*)

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