よりよく生きよ、むすめたち。
よろこびはここにある。
司祭という肩書から自由になりたかったヴィヴァルディ先生が
宗教ではなく、音楽というかたちで、ピエタの娘たちに与えた祝福。
本を閉じても、ゴンドラの上でロドヴィーゴが口ずさむ歌や
光あふれるピエタ慈善院の庭で、少女たちが奏でる弦楽の調べが
いつまでも胸の中で鳴り響いて、心ごとヴェネツィアへ連れ去られそう。
音楽を愛するすべての人に読んでもらいたくなる、素敵な本です!
超絶技巧で音楽を征服するかのようなヴィルトゥオーゾの演奏も素晴らしいけれど
母から娘へ、父から息子へ、親方から弟子へと、口づてで伝えられる歌や
「ここを大きな音で弾きたいの!」と、ピアノの椅子の上で飛び跳ねるように
小さな子が全身を使って弾くフォルテッシモや
テクニックが追いつかなくても、その曲が好き、という気持ちだけを溢れさせて
アマチュア楽団が一生懸命に奏でる音楽が、どうしようもなく尊くて
かなわないなぁ、と思う瞬間があります。
この物語も、『四季』で有名なアントニオ・ヴィヴァルディが
捨て子たちに弦楽を教えたピエタ慈善院を舞台にした物語なのですが、
天賦の才能でヴァイオリンの名手として名を馳せるようになるアンナ・マリーアも
奏者としては大成できないと気付き、ピエタを経営面で支え続けるエミーリアも
小さいうちに音楽を諦め、薬草の知識を生かして薬剤師となったジーナも
裕福な貴族の娘の教養として音楽に触れ、寄付でピエタを支えたヴェロニカも
高級娼婦の身分ながらヴィヴァルディ先生を愛し、寄り添い続けたクラウディアも
才能のあるなしや、生れ育ちに関わらず、
音楽を愛すること、ヴィヴァルディ先生を慕い、崇拝することにかけては
眩しいほどに平等なのです。
ヴェネツィアを離れ、遠いウィーンで亡くなって
父親に押し付けられた司祭というくびきからやっと自由になったヴィヴァルディ先生。
その温かい祝福を天から浴びて、ピエタの庭で和やかに合奏する
もうおばあさんになったエミーリア達の姿が
いつしか、音楽の美しさに初めて触れた頃のあどけない少女の姿に変わって
心に焼き付いてしまう、美しくいとおしい物語でした。
- 感想投稿日 : 2013年2月7日
- 読了日 : 2013年2月5日
- 本棚登録日 : 2013年2月7日
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