ピエタ

著者 :
  • ポプラ社 (2011年2月8日発売)
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本棚登録 : 2302
感想 : 431
5

よりよく生きよ、むすめたち。
よろこびはここにある。

司祭という肩書から自由になりたかったヴィヴァルディ先生が
宗教ではなく、音楽というかたちで、ピエタの娘たちに与えた祝福。

本を閉じても、ゴンドラの上でロドヴィーゴが口ずさむ歌や
光あふれるピエタ慈善院の庭で、少女たちが奏でる弦楽の調べが
いつまでも胸の中で鳴り響いて、心ごとヴェネツィアへ連れ去られそう。
音楽を愛するすべての人に読んでもらいたくなる、素敵な本です!

超絶技巧で音楽を征服するかのようなヴィルトゥオーゾの演奏も素晴らしいけれど
母から娘へ、父から息子へ、親方から弟子へと、口づてで伝えられる歌や
「ここを大きな音で弾きたいの!」と、ピアノの椅子の上で飛び跳ねるように
小さな子が全身を使って弾くフォルテッシモや
テクニックが追いつかなくても、その曲が好き、という気持ちだけを溢れさせて
アマチュア楽団が一生懸命に奏でる音楽が、どうしようもなく尊くて
かなわないなぁ、と思う瞬間があります。

この物語も、『四季』で有名なアントニオ・ヴィヴァルディが
捨て子たちに弦楽を教えたピエタ慈善院を舞台にした物語なのですが、

天賦の才能でヴァイオリンの名手として名を馳せるようになるアンナ・マリーアも
奏者としては大成できないと気付き、ピエタを経営面で支え続けるエミーリアも
小さいうちに音楽を諦め、薬草の知識を生かして薬剤師となったジーナも
裕福な貴族の娘の教養として音楽に触れ、寄付でピエタを支えたヴェロニカも
高級娼婦の身分ながらヴィヴァルディ先生を愛し、寄り添い続けたクラウディアも

才能のあるなしや、生れ育ちに関わらず、
音楽を愛すること、ヴィヴァルディ先生を慕い、崇拝することにかけては
眩しいほどに平等なのです。

ヴェネツィアを離れ、遠いウィーンで亡くなって
父親に押し付けられた司祭というくびきからやっと自由になったヴィヴァルディ先生。
その温かい祝福を天から浴びて、ピエタの庭で和やかに合奏する
もうおばあさんになったエミーリア達の姿が
いつしか、音楽の美しさに初めて触れた頃のあどけない少女の姿に変わって
心に焼き付いてしまう、美しくいとおしい物語でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: あ行の作家
感想投稿日 : 2013年2月7日
読了日 : 2013年2月5日
本棚登録日 : 2013年2月7日

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コメント 4件

円軌道の外さんのコメント
2013/02/09


こんばんは!

音楽に携わるまろんさんだからこその
愛情と熱を感じる
素晴らしいレビューですね(*^o^*)


自分も16から21年
音楽に救われ
ロックと共に生きてきたので、
音楽小説には
ホンマ目がないんスよね〜(笑)


ただ自分は
クラシックには疎いんですが(汗)
そんなロックバカでも
理解できる内容なのかが
すごぉぉ〜く気になります!(>_<)
(それに外国の小説のような世界観ですよね)


だいさんのコメント
2013/02/10

ヴィヴァルディその人のような影を感じ、それぞれの対比が良かったと思っています。
修道院の厳格な日常と、カーニバルでの非日常的な出会い。ヴェネツィアの繁栄とその後は、ヴィヴァルディとも重なる。
コルティジャーナが物語の影になっているのかもしれない。

最後に
>ゴンドラの上でロドヴィーゴが口ずさむ歌
読んだ人それぞれの、想いの歌が聞けるのではないかと思います。

まろんさんのコメント
2013/02/11

円軌道の外さん☆

ヴィヴァルディが亡くなったことから動き出す物語なのですけれど
クラシック音楽の世界を描いた、というよりは
ヴィヴァルディをいろんな形で愛した女性たちの人生を丁寧に描いているので
読書家で音楽好きな円軌道の外さんに理解できないことなんて、ひとつもありませんよ~♪
ヴェネツィアの冬のカーニバルの雰囲気や
おばあちゃんになっても少女のような、ピエタ慈善院の女性たちがとても素敵な本です♪
お時間があったら、ぜひぜひ(*'-')フフ♪

まろんさんのコメント
2013/02/11

だいさん☆

亡くなるところから始まるのに、いろんな女性の視点で描かれるヴィヴァルディが
とても魅力的に感じられる作品ですよね。

ピエタの捨て子たちや、音楽を習いに通っていたヴェロニカにとっては
眩しい太陽のような父であったヴィヴァルディが
唯一、自分を曝け出して自由に振舞える
母のような存在がクラウディアだったんだなぁ、と思いました。
余韻のある、とても素敵なおはなしでしたね♪

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