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天才 柳沢教授の生活 ベスト盤 The Green Side (講談社文庫)
- 山下和美
- 講談社 / 2011年2月15日発売
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ベスト盤の赤と青を手に入れてほくほくしていたら
なんと緑とオレンジまで刊行されていたとは!
相変わらず朝5時半に起床し、道路交通法を遵守して大学への道を姿勢正しく歩き、
その道すがら垣間見る一家の暮らしぶりをさりげなく気にかけ
幼い子どもからゼミの学生、大学の同僚から
バーで偶然隣同士になった伝説のロックスターまで
巡り会ったあらゆる人を曇りのない公平な目で観察し、
求められれば助言を惜しまず
誰かを救おうなどという驕りとは無縁なのに
その公正さで無意識のうちに誰かを救ってしまう、
そんな柳沢教授が素敵すぎて
見開きで描かれた柳沢教授の家系図に、飼い猫タマの子分となってでもいいから
加わりたい♪と妄想してしまいます。
(だってほら、タマの右隣にちょっとだけスペースが空いてるし♪)
「花の名前」・「風を創る」で描かれる
大学の学長まで登り詰めても、あるいは教授職を手放して家庭に入っても
老骨に鞭打って(柳沢教授、ゴメンナサイ!)ママチャリで爆走しても
学びたいことが世界にはまだまだある!と高らかに宣言できてしまう
若々しい奔馬のような学問欲に心打たれ
「心の雨」で描かれる
見かけは近寄るのを躊躇ってしまうくらいハードなパンク野郎のヒロミツの
実はものすごくまっとうで、やさしい心根と
やさしさ故に失敗を繰り返す彼に、面と向かって
「でもヒロミツはかっこいいよ」と言えてしまう世津子の潔い愛情に拍手して
でもでも、試着室から「どうかしら」と頬を染めて出てきた奥さんに
「パンダのようですね」はないよ!柳沢教授、世紀の大失言だよー!
と思わずつっこんでしまう、ベスト盤 The Green Saideなのでした。
2012年8月23日
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天才 柳沢教授の生活 ベスト盤 The Red Side (講談社文庫)
- 山下和美
- 講談社 / 2010年9月15日発売
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遥か昔、免許取り立てで決行した初めてのドライブデートで
柳沢教授にダメ出しの嵐を食らったのをかなり根に持っていた奥さんが、
久しぶりに手に入れた車のキーに舞い上がり、
不本意ながら助手席に坐った教授を翻弄する第一話。
「正子」という名前とは真逆の、道路交通法をものともしない妻の運転に
珍しく精神の極限状態に陥り、
「私たちの車を血液中を流れるヘモグロビンと仮定しよう」と
ヘモグロビンまで持ち出して落ち着こうとする教授のうろたえぶりと
そのエピソードに「縛られて」とタイトルをつけるセンスに大笑い!
そのあと一転、2話めからは幼少期の柳沢教授と家族のエピソードを中心に
天真爛漫な感激屋で留守がちな父との再会に、素直に喜びをぶつけられなかったり
手のかからない聡明な子と自分を評価してくれる母が弟や妹に向ける笑顔を
どうしたら自分も手に入れられるのかと悩んだり
他家から引き取られた弟に子どもらしい嫉妬を感じながらも
理性で懸命にそれを封じ込めようともがいたり。。。
と、冷静で大人びた表情の陰で思い悩む柳沢少年が
丁寧に繊細に描かれ、抱きしめてあげたくなるけなげさです♪
「桃太郎のいる風景」・「その表情の向こう」・「ソネット83番」・
「校庭を見ていた少年」で描かれる
学ぶことの意味、人それぞれが本来持っている能力を
生かそうと努力することへの敬意にも深く心打たれて
柳沢教授をかたち作る思い出の数々に感謝を捧げたくなるベスト盤です!
2012年8月3日
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天才 柳沢教授の生活 ベスト盤 The Blue Side (講談社文庫)
- 山下和美
- 講談社 / 2010年9月15日発売
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この人のように生きたい、とか
この人にだけは軽蔑されたくない、とか
この人にはどうやっても敵わない、とか
思える人に出逢えるのは、とても幸福なことだ。
幼少期から自分のスタイルに忠実すぎるくらい忠実に、
「空気を読む」という言葉とは別の地平で生きてきた柳沢教授が
本人の与り知らないところで
そういう存在として、誰かの心の拠りどころになっているのが素敵。
「また出会った2人」、「こころ」、「踊りませんか?」などで
そんな神々しいまでの存在感を見せた彼が
「夫婦の音色」で、愛する妻には驚くほどピントのずれた対応をし続けたり
「性(さが)」では、珍しく細い目を大きく見開いて、
友人を殺伐とした世界から救おうと奮闘しながら
力及ばず無念を噛みしめる姿を見せるのも、奥が深い。
楚々とした美女がふっくらとした生活感溢れるおばさんになり
美少年が、その面影を残しながらも壮絶な老人になった様を描けてしまう
山下和美さんの卓越した画力にも目を瞠る名作です!
2012年7月25日
とうとうきてしまった最終巻!
手塚慧を広告塔とし、マスコミを巻き込み、良化委員会への無関心層の反発を煽る頭脳派作戦があると思えば、
テロの参考にされた(と決めつけられた)本の著者を守るために、嵐の中を撃たれながらも走る郁と堂上がいて、
それを、なんの見返りも期待せずに助けるトラックの運転手や、書店の店長やデパートのおばさん達がいて。
そして、エピローグ、新隊員に「アホか貴様はッ!」とゲンコツを落とす「堂上教官」に、にんまりする。
「書いて楽しんだ」と言ってくださった有川さん!
私も、ちゃんと「読んで楽しみ」ました!
郁の「王子様卒業宣言」に、小牧といっしょに爆笑の発作をおこし、
よりによって図書館で、抵抗できない相手に不埒な行為を働く男に、(脳内で)最高速度のねこパンチ&キックを繰り出し、
今、この瞬間にも存在する、私たちの気持ちからかけ離れた、お仕着せの「差別用語」に歯がゆさをかみしめ、
女子だけの職場にありがちな、勘ちがいもはなはだしいヒエラルキーに立ち向かう郁の啖呵に拍手喝采し、
玄田隊長の男気に胸を打たれ、
稲嶺指令に、図書隊といっしょに敬礼しながら、カミツレの花束を渡したいと心から願う、
図書館シリーズ第三弾。
図書隊のみんなと、もし知り合えたら。。。
郁・・・「王子様」関連の話題を振って、火を噴くほどに赤面する様子や、鍛えあげた腹筋から叩き出す腹式呼吸の悲鳴を楽しむ。
堂上・・・「背がのびる」グッズをプレゼントして、「このアホウ!」と、怒鳴られたい!
小牧・・・にっこり笑った顔のまま、正論で滔々と諭されたい。
手塚・・・兄の慧の話題に持ち込んで、すねたりいじけたり、強がったりするさまを、つぶさに観察する。
柴崎・・・本音でつきあえるまでなんとか仲良くなって、ポーカーフェイスのうしろに隠した毒舌と、ちょっとかわいい愚痴を聞きたい♪
玄田・・・男気あふれる突拍子もない決断に、振り回されたい。
という妄想はともかく、図書隊の面々のバックグラウンドが明らかになって、ますますおもしろい第二作!
アニメ化の際、カットされてしまった小牧と毬江ちゃんのエピソードも見逃せません。
好きすぎてなかなかレビューを書けなかったけど、映画化記念に。。。
とにかく、本を守るために体を張って戦う!っていう設定だけで、「まかせて!一緒に戦うわ!」という気持ちにさせられてしまう。
テンポのよい会話や、「キャラが立ってる!」という言葉をギリギリまで具現化したような登場人物や、ミリタリーな状況下での「恋愛フルスロットル♪」ぶりに軽く見られがちだけれど。。。
言論の自由、表現の自由、生き方の自由など、人がそれぞれいちばん大切にしているものを守るために、自分のやり方で戦うことへの賞賛に満ちた名作だと思います!
ロードレースの世界を描いた本とのことで、ついていけるか不安を抱きながら読み始めたけれど。。。全くの杞憂でした!
「勝つためには手段を選ばない冷徹なエース」と周りの誰もが思っていた石尾の、ロードレースにかける並外れた情熱と、アシストしてくれた仲間、自分の跡を継いでロードレース界を引っ張っていくであろう後輩への真摯な想い。。。
エースを勝たせるためなら、自分のタイヤを譲っても、ゴールできるチャンスを逃してもアシストする、という特殊な世界ならではの、ラストの壮絶なまでの「サクリファイス=犠牲」。
ひき込まれる作品でした!
2012年4月29日
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秋の花 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M き 3-3)
- 北村薫
- 東京創元社 / 1997年2月16日発売
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もう亡くなってしまった少女として、会話の中や回想にしか出てこない津田真理子の、圧倒的な存在感。
凛として、まっすぐなまなざしで未来を見つめていた彼女の命が、あっけなく絶たれてしまう哀しさ。
円紫さんシリーズの中では異色の作品かもしれないけど、私は、この真理子の短い人生に触れられたそのことだけで、この作品が一番好きです。
そして。。。再読したとき
一行目に仕掛けられた、北村さんの読者への挑戦に、鳥肌がたちました。
やっぱりすごい、北村薫!
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風に舞いあがるビニールシート
- 森絵都
- 文藝春秋 / 2006年5月31日発売
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森絵都さんの作品では、勢い余って書いているような「つきのふね」や「カラフル」なんかのほうが好きだけど、この作品は森さんの上手さが余すところなく出ていて、まさに直木賞該当作だなぁ、と思う。
表題作の「風に舞いあがるビニールシート」。
暴力になす術もなく蹂躙される難民の象徴として何度も登場するビニールシートに、ラストでUNHCRのスタッフたちが、お花見の席で、どっかりと腰を据えて、シートに舞い上がる隙など一切与えない風情で宴会してるのが
とてもいい!
でも、この短編集でいちばん好きなのは「ジェネレーションX」。
石津の電話相手との会話から漏れ聞こえるだけのフジリュウやイワサキが、まるでそこにいるかのように生き生きと動き出してくる感じで、最後には野田ともども、木更津まで一緒に行ってやろうじゃないか!という気分になってしまう。
あまりにひとりひとりのキャラクター造形が鮮明なので、思わず頭の中で、ドラマ用に俳優さんをキャスティングしながら読んでしまった。。。
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3月のライオン 7 (ヤングアニマルコミックス)
- 羽海野チカ
- 白泉社 / 2012年3月23日発売
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たいせつな人、たいせつなものを守ることを覚えた零の、射るようなつよいまなざしがまぶしい折込イラスト!零くんがんばれ!
無意識のうちにお互いを深いところで救いあっている、最近の零くんとひなちゃんに泣かされます。
でも、なんといってもこの第7巻のヒーローは、ひなちゃんの新しい担任になった国分先生!もう、あの不敵な笑みに釘付け!
ひなちゃん、零くんのような若い世代をみずみずしくリリカルに描きながら、その一方で本当の大人の凄味を余すところなく描けるところが羽海野さんの素敵なところです。
2012年3月28日
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玻璃の天 (文春文庫 き 17-5)
- 北村薫
- 文藝春秋 / 2009年9月4日発売
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数年前にシリーズ第一作「街の灯」を読んだ時は、円紫さんシリーズや時の三部作ほどにのめりこめるものを感じられなくて、かなり長い間手をつけずにおいてしまっていたのですが。。。
時の三部作「リセット」で、なが~い導入部に挫折しそうになりながらも読み続けて、ラストの奇跡に触れたときの感動がより深まったように、「街の灯」は、このベッキーさんシリーズの、ながいながい助走部分だったんだなぁと、すとんと腑におちました!
この第二作「玻璃の天」では、前作では輪郭しかつかめなかったベッキーさん(それでも十分に凛としてかっこいいのだけれど)が、あたたかい血の通った存在として、もっと身近に感じられました。
でも、なんといってもうれしいのは、14歳にして、軍事色の強まってくる時代にあって、軍人相手に大義よりも心の自由を選びたいと、臆することなく
言えるようになったヒロイン英子の成長ですね!
このときの会話のお相手若月少尉と英子の今後も、戦争にむかって坂をころがり落ちるように進んでいく日本の姿も気になってしかたがないので、このあとすぐ「鷺と雪」を読み始めちゃいます。
2012年3月25日