神の発明 カイエ・ソバージュ〈4〉 (講談社選書メチエ)

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著者 :
twodragonsさん 人類学   読み終わった 

物理学では万物の根本原理を科学的に証明する理論を「公式(モデル)化」する試みによって重要な発見がいくつもなされてきた。そのような「万物の理論」を探求する上で重視されてきたのが「対称性の原理」である。あらゆる現象を説明できるほどに汎用性の高い公式は、「対称性(偏りのない数学的美しさとシンプルさ)」を兼ね備えていなければならなかったからだ。

著者は人類をめぐる壮大な歴史のフルコースを、古今東西さまざまな文明の材料をふんだんに使って、鮮やかに調理してみせる。そこで用いられる調理器具(モデル)こそ「対称性の原理」である(もちろん物理学でいう対称性とは内容が異なるが)。

本書で「対称性の原理」のモデルとして活用されるのは「メビウスの帯」(表と裏が「ねじれ」ながらひとつながりになっている帯のこと)である。

そこで示されるのは、「人間(表)」と「自然(裏)」との根源的な「結びつき」が成立する原理であり、「人間/自然」の区分がもはや分別不能となる世界である。なぜなら、人間もまた本来「自然の力」によって生み現れたものの一部に他ならないからである。

著者は、この人間と自然との「結びつき」を引き裂いたり、再び回復しようとする試みが、宗教・哲学・科学・政治・経済等のあらゆる分野でどのように展開されてきたのかを、「トーラスの輪」「クラインの壺」といった他のモデルを駆使しながら、明晰かつウィットに富んだ語り口によって説明してみせる。

著者によれば、この「対称性」は「(西欧的な)文明化」とともに隠ぺい、忘却、抑圧されてきた。

たとえば、西欧の形而上学や科学に代表される「分析的知性」は、人間と自然(動植物や鉱物)との間に分断線を引くことでそれらを客体化させ、積極的な開発・利用・搾取を可能にした。また、(自然や他者とのつながりから分断された)「個人」や「共同体」による「契約=選択」という考え方は、「一神教」や「国民国家」「資本主義」の前提ともなっている。

そのうえで、著者は現代社会が抱え込んでいる難問の多くが、生命やこころの根源にある「対称性」が破られたことによってもたらされたものであることを示す。

「宇宙や自然とのつながりを取り戻す」というとオカルトめいて聞こえるかもしれない。だが、著者によると、人間は記号論理的な「分別的知性」と同時に、常に変成し続ける事象全体を、直感的に捉える「流動的知性」を本来的に備え持っている。著者は人間の脳が備えているそのデフォルト機能に希望を見出している。

宇宙を生成変化させる「大いなる力」の現れを精霊(スピリット)として崇めてきた「古代人」。分断し、固定化された概念への執着を無碍にする「仏教」。これらの考え方や生き方は、「分別的知性」と「流動的知性」をかろうじて両立させ、「対処性」を維持・回復することを可能にしてきたからだ。

本書を味わう醍醐味は、人類史をめぐる現象の単なる知識や情報を得ることではなく、そこに潜む根本原理を通じて「自分たちはどこから来てどこへ行くのか?」という存在への根源的な問いを掘り起こすことにある。

そして、なにより「生命の大地」「こころの母胎」にふれることは、世界をよりいっそう新しい驚きと喜びに満ちたものとして受け容れることを可能にしてくれる。

レビュー投稿日
2015年8月11日
読了日
-
本棚登録日
2015年7月25日
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