スカイ・クロラ (中公文庫)

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レビュー : 663
著者 :
ミツさん SF   読み終わった 

死を内包した物語。

飛行機は、そもそも死を内包した乗り物である。
それが戦闘機とくれば、死はますますあからさまになる。
その飛行機乗りとして子どもを乗せる。
それがスカイ・クロラの物語の世界である。

空のシーンとした静けさを感じさせるような文章。
淡々とかすな息遣いで語られる物語。

主人公の僕“カンナミ”は草薙水素という女性の上司のもとに赴任する。
ともに大人になるのを拒否したキルドレ。
出会いから、恋愛めいた空気がかすかにたちこめる。
しかし、それは、実は。
僕は優秀なパイロット。
注意深く、手順を踏まえて、敵を撃つ。

物語は飛行シーンと地上シーンとで
異なる空気感を醸す。
飛行シーンは精密なマシーンのようにマニアックで静謐な孤独。
地上シーンは人との関わりの中での孤独。

キルドレは孤独。
コクピットも孤独。
群衆も孤独。

「理解しようとするほど、遠くなる。
どうしてかっていうと、理解されることが、僕らは嫌なんだ」

「死にたいと思ったことがある?」
「だから、しょっちゅう」

「電話のベルが鳴ったり、止んだりするみたいなものなんだ」

「鳴りっぱなしじゃ煩いし、鳴らなかったら、
 電話がどこにあるのか、みんな忘れてしまう」

そして、キルドレのもう一つの志向は死。

物語はラストへ静かに加速する。
フルスロットルで上昇する飛行機のように。

森博嗣の小説は理科系ミステリーという
新境地を拓いた。

理科系の段階的思考を果てしなく積み重ねて。
あるいは仮説の構築をいくつも繰り返して。
それらは頭脳の中で。
そして、熱の少ない、静かな文章を紡ぐ。
ラストまで一気に。

静けさ。科学の果てのリリカル。
それは宇宙飛行士が地球上に戻って見る
宗教的境地にも似ている。

このスカイ・クロラは
空を飛ぶ物語。
その文章はリリカルで地表を離れて浮遊している。

カンナミは空を飛んで
敵を撃ち落とし
仲間とかすかに触れ合い
草薙という上司と対峙する。
永遠は一瞬。
永遠に大人にならないこと。
永遠は死。
大人にならない子どもは
だから、空を飛ぶ。

レビュー投稿日
2011年7月28日
読了日
-
本棚登録日
2011年7月28日
2
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