サイードの著作を読むならば『オリエンタリズム』をまずひもとくべきでしょうが、それよりもまずこちらから紐解いた方がよいのではないかという一冊。異文化理解の根本は、実像を辿ること。そしてそれを知ることから始まる。
異質なものを異質なものと認めることには勇気が必要です。
しかし、その勇気を省いて、テキトーなイメージで済ませてしまう。
こここに大きな問題点があります。
サイードは、パレスチナで過ごした子供時代、そして青春時代の詳細な部分をこの本で映画のように描いております。そこには別の文化や地域の子供達と同じように、サッカーに興じ、こまったひとのためにつくす大人の姿、そして不正義に憤る少年の姿が描かれております。
難民でもなく、テロリストでもない。しかしパレスチナの悲劇を背景にもつ少年の実像がそこに描かれている。
こうした実像は、強烈なイメージとしての「異質なもの」を増長させるわけで、均一な人間のイメージを描くわけでもない。
そうしたところから遠くかけはなれた、生きた人間の記録がそこにある。
これを洗練させていったところに「オリエンタリズム」が存在する。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
カルチュアル・スタディーズ
- 感想投稿日 : 2010年11月7日
- 読了日 : 2010年11月7日
- 本棚登録日 : 2010年11月7日
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