
圧倒的。本当に美しく、眩い物語だった。「すべての見えない光」というタイトルに反し、最後に心に残るのは確かな"光"だ。
主人公の一人が目の見えない少女なのに、なぜか音は感じず光を感じる文章なのが不思議。
小説を評価するときに、"映像的"と表現するのが良いのか悪いのかわからないけれど、本作はとても"映像的"な小説だった。
断片のように細かく区切られた文章が、時間や場所をまたいで複雑に並べられている構成。ただ、時間軸や場面の交錯はプロットを複雑にするのではなく、様々なカットが細かく切り替わっていく映像的な演出のようだった。細かな断片の一つ一つには重要なメッセージがみつからない場面もあるけれど、断片が層になり世界を彩りながら形作っていく。
イメージしたのは宇多田ヒカルの「真夏の通り道」という曲のMVだった。
私はこういう世界観を撮りたくて、GRというカメラを買ったんだけど、映像的な理想像を、まさか文学で見せつけられるとは思わなかった。
「真夏の通り雨」の他、表紙の印象もあるけれど、思い出すのは「小さな恋のメロディ」辺りもそう。
いわゆる"文学的"と表される映画・映像作品を思い起こされるけれど、「"文学的”な映像」をさらに"文学"でもって再構築されているといいますか…。書いていて自分でもよくわからなくなってきたけれど、そういう不思議な印象がある作品だった。
物語としてはざっくり言えば"ボーイ・ミーツ・ガール"の物語。
断片的に紡がれるストーリーの到着点が少年と少女の邂逅の瞬間であることは早い段階でわかるんだけど、それが幸せな瞬間なのか不幸せな瞬間なのかはわからず、期待しながらも恐れながらページをめくる。
たどり着いた邂逅の瞬間は、結果だけをみれば幸せなのか不幸せなのかやっぱりわからない。
だけど、そこにあったのはやはり眩いまでの光で、それは確かな「愛」ではなく、不確かな「恋」で。
そういう、少年少女のある瞬間にしか出せない感情こそが、おっさんには「光」に感じられるのかな。。。なんてことを考えさせられた。
それにしても、世界にはこんな素敵な物語がリアルタイムで生まれている。読むべき本はまだまだ世界に溢れ、そして今なお生まれて続けているんだなーと、とても嬉しく希望を感じる作品だった。
- レビュー投稿日
- 2017年6月26日
- 読了日
- 2017年6月26日
- 本棚登録日
- 2017年6月26日