「彼」が誘拐事件の裁判を傍聴し、それを自身の犯行の参考にするというちょっと変わった倒叙形式から始まる誘拐事件です。
この犯人が傍聴している誘拐事件は、昭和35年に実際にあった「本山事件」であり、作中では「木村事件」となっています。作者は「本山事件」の裁判に実際に足繁く通っていたらしく、その成果もあってか法廷シーンは詳細でした。裁判で明かされる本山事件の全貌と犯人の姿、そしてそれを冷静に分析している傍聴席の未来の誘拐犯人、という構図がおもしろく、緊迫感のある法廷場面です。2度と同じ事件が起きて欲しくないと訴える被害者の父親を傍聴席で聞く冷徹な彼の姿が恐ろしいです。
「彼」が実際に起こす誘拐事件の被害者は高利貸しで、恨みを持つ者が多い上に家族内にも確執があり、容疑者がどんどん現れます。
本山事件の失敗から警察を信用しない被害者家族が、情報を隠したり独断で行動したりと、警察が翻弄される様がサスペンスフルでした。
弁護士・百谷泉一郎が登場してからは、犯人である「彼」を追って大規模な作戦が決行されますが、相場師の奥さんのひらめきと度胸で決行されるお金に物言わせたこの作戦はおもしろかったです。
ここで「彼」の正体が暴かれるわけですが、ここから更に事件が二転三転していくのが素晴らしい。
百谷が犯人に突きつけた決定的なミスは、なんとも単純でありながら全くの盲点でとても驚きました。
そして最後の犯人の衝撃的な台詞。
傑作でした。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
国内ミステリ
- 感想投稿日 : 2012年6月19日
- 読了日 : 2012年6月10日
- 本棚登録日 : 2012年6月6日
みんなの感想をみる