とむらい機関車 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社 (2001年10月25日発売)
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本棚登録 : 204
感想 : 21
4

戦前の作品で古風な探偵小説という雰囲気が楽しめます。挿絵がとても美しくて雰囲気を大きく盛り上げてくれました。
どれも真っ直ぐな本格ミステリですが、「あやつり裁判」や「雪解」など、バラエティにも富んだ1冊だと思います。


【とむらい機関車】機関車が豚を轢いてしまう事故が連続して発生。なぜ豚が続けて何度も同じ機関車に轢かれるのかという事件の発端はおもしろいです。旅の途中で聞いたちょっと奇妙な話、というような第三者への語り口も暗い雰囲気で良い。現場に残された品物からの推理、待ち伏せと調査は活動的で楽しく、理路整然と真相に繋がっていくのは気持ちいいのですが、轢死というグロテスクな事件、死人が出るたびに飾られる弔いの花輪など、これらが動機と繋がって暗く不気味な、哀しいラストとなりました。

【デパートの絞刑使】デパートで発見された死体の異様な様から論理的な推理がなされる、まっすぐな本格ミステリーです。この真相はデパートという場所も活かされたおもしろいものでした。実際の当時を思うと挿絵の効果もあり不気味です。

【カンカン虫殺人事件】これもまた発見された死体の異様な状況からの推理で、逆再生していくように真相に迫っていくのはおもしろい。ですが状況を想像すると気味悪いです。

【白鮫号の殺人事件】白鮫号での殺人事件。船の様子から導き出した仮説、そしてその証明の仕方はおもしろかったです。

【気狂い機関車】雪降る季節、人気のない無機質な駅、惨たらしい死体と雰囲気抜群。このトリックは凶器も怖くて面白い。そしてなにより青山が明らかにした事件の真相の不気味なこと。ひた走る機関車と犯人が重ねあうようで、「気狂い機関車」のタイトルにゾォっとします。

【石塀幽霊】このトリックは単純ですが、もうひとつ怪奇さを加えているのがおもしろいです。登場する容疑者にもワクワク。、足跡からの追跡だとか目撃者の苦悩だとかも楽しかったですが、あの人はトリックを知ってる可能性が高いんじゃ。

【あやつり裁判】この真相にはびっくりしました。なんて悪質。不可解な事柄に対してのなぜ?が楽しい一編です。

【雪解】倒叙形式。これといったトリックはない殺人事件ですが、金鉱への情熱を抱く男が凄い。雪解によってぽろぽろと出てくる犯罪の痕跡、それが男の金への執着とも重なって、結末は狂気に満ちていました。

【抗鬼】まず炭鉱での人々の様子が素晴らしいです。災害や事故と隣り合わせな仕事の過酷さと、そこで働く人々の生活は興味深く読みました。そこで起きる事件というのがまた怪奇でおもしろい。突然の火事にパニックになる採炭場。防火扉の向こうに閉じ込められた男。次々と起こる殺人。見つからない死体。火事と殺人事件で緊迫し、混乱した採炭場での本格ミステリ。物語性も謎解きも非常に良質な一編でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 国内ミステリ
感想投稿日 : 2012年10月22日
読了日 : 2012年10月15日
本棚登録日 : 2012年10月3日

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