きりひと讃歌 4

著者 :
  • 手塚プロダクション
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感想 : 5

さすがの手塚作品。モンモウ病を軸に、医学界と社会の有り様、人間の業を描いた作品とでもいえば良いでしょうか。てっきり公害病に結びついて、ある企業を吊し上げするのかな、と思ったのですが鉱山からしみ出す地下水の影響だと(公害ではなく鉱害か)。途中、小山内桐人が医者なのに人の命も救えないと自分を責め立てるシーンがありますが、ブラックジャックでも恩師本間丈太郎の死に際して似たようなシーンあったなあ、と。ブラックジャックでは『人間が生きものの生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わんかね』と諭されますが。この辺り、医者としての手塚治虫氏の苦悩が出ているのかなあ、なんて思って。
今回登場する女性キャラって、いい人ばかりな感じ。ただし、幸せにはなれないんだよな。桐人と関わることで一縷の救いはあるのだけど。いずみさんは最後桐人を追っかけるし、たづさんも甲斐甲斐しく看病し、ヘレンも不遇の人生ながら卜部の子供を産むし、麗花は最初の怪しげな感じから結局いい人で。最後の事故は哀しくなる。
でも、桐人がたづさんをあんなにも愛したのが少し不思議な気もしたんだよな。いずみという恋人がいたのに。
逆に卜部がすごく不思議で、けっこう魅力的なキャラだったなあ、なんて思って。異常と正常の綱渡り。案外、良いやつだったのでは、と感じてしまう。(やっていることはけっこう外道だけど)
最後は復讐というより、医者として人間として正しいこと、間違いがあれば認めることを求めたが、竜ヶ浦教授はそれすらできずに。まあ、歳をとると自説を曲げるのは容易ではないわな。
ヘレンが犬の子を産む夢を見るシーンがあるけど、この想像力がすごいなあ、と。苦悩、コンプレックスを抱えている人にはその人にしかわからない苦しみがあるんだろうな、と改めて思った。先に読んだ「聲の形」もそうだなあ。
最後は犬の先生ドッグ・ドックと呼ばれた村に帰るシーン。そして、それを追いかけるいずみで終わる。良い締めではないか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2015年9月12日
読了日 : 2015年9月4日
本棚登録日 : 2015年9月12日

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