村上龍自身の体験を元にした半フィクション小説。
思春期真っ盛りの少年達が思わず手にとってしまいそうなタイトルだが、そんな幻想を懐きながら購入した人には残念ながら期待を裏切られることになるだろう。ネタバレすると本書は1969年の話である。しかし、このタイトルはなかなか秀逸。主人公矢崎がふざけ半分で考えたような自然さがある。
本書にはこれといって、中身がない。ただ、思春期真っ盛りの少年の一年を描いただけである。
さて、本書は半フィクションの小説であるが、22歳の私から見れば完全にフィクションである。学生運動もバブルも映像や本で読んだだけの空想の世界である。そこには現実感がさっぱりなく懐かしそうにその時代を語る中年の方々は夢を見ているのではないかと思ったりもする。
それほどに私と本書の世界は食い違っている。せいぜいが、暴力教師がほんの一握り残っていたぐらいで、それも手加減のしたビンタ程度でグーで殴ることが当たり前だった当時とは比べるべくもないだろう。バリケード封鎖なんて言葉もなく、思想家の本を読めば馬鹿にされるそんな時代だった。
おそらく今17、18歳の高校生から見ればそれにも違和感を感じるのだろう。
青春というのはある種、最も時代を反映し、たった数年でガラリと変わってしまう。だからこそ、その時代を生きた人々だけの宝物で同年代にしか通じない暗号だ。それゆえに、楽しい。年を取ってからも仲間だけに通じる話題、流行。とても甘い響きである。
自分がこの時代に育ったとしたら、と本書の登場人物に自分を重ねてみると面白いかもしれない。私などはきっと小心者でどこか夢見がちな岩瀬のような少年だったように思う。
日常的に教師に暴力を振るわれるというのは恐ろしいけれど、もう一度学生をやりなおすのならば今よりも昔の方がきっと自由で過ごしやすいだろうなと本書を読んで感じた。本書で行われることは決して奨励されるべきではないが、現代でやればマスコミが押し寄せ学校も家族も削り取られるまで削り取られ、社会から捨てられるだろう。ルールは秩序を守るためにあり、その秩序を乱さなければ逸脱したい者はすればいい。異分子をまったく認めないのもつまらない世界ではないだろか。
- 感想投稿日 : 2010年10月28日
- 読了日 : 2010年10月28日
- 本棚登録日 : 2010年10月28日
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