A Pale View of Hills

  • Faber & Faber (2010年2月25日発売)
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本棚登録 : 56
感想 : 5
4

 他の方もレビューに書いておられるが、本書では多くのことが曖昧なまま、読者の想像に任されている。Nagasaki での生活はその後どうなったのか、なぜEtsuko はEngland に来たのか、Americaに着いたら便りを寄越すと言ったSachiko から結局連絡はあったのか…。
 勿論直接的な原因は、公園で見かけた少女からMariko を思い出したということなのだろうが、なぜEtsuko が、Sachiko との親しい交流があった長崎での一夏のことを思い返しているのか、よく分からなかった。最後の最後になって、漸く少し分かったような気がする。それは、ごくごく簡単に言ってしまえば「過去との別れ」ということなのだろうと思う。碌でもない男との未来に希望を託すSachiko、戦争中に見た不気味な影に怯えるMariko 。昔の日本の姿が次第に失われていくことを嘆くOgata-san、そんな考えはもう古いんだという彼の教え子、自分の仕事で精一杯でOgata-sanの言葉にまともに取り合わないJiro 。無意識のうちにかSachikoと同じように海を渡って日本を離れるEtsuko 、家族の連帯を尊ぶOgata-san、結婚なんて馬鹿げていると言い自由であることを楽しむNiki、Mariko が可愛がっていた仔猫を川に沈めるSachiko 。そして今を生きる若いNiki と、恐らく中年に達し追憶の中穏やかに生きるEtsuko。そういったものが互いに響き合って、えも言われぬ不思議な雰囲気を醸し出している。一人称の視点人物であるEtsuko の感情があまり語られないのはKazuo Ishiguroのお得意の技(?)で、その控えめな筆致は好感が持てるものなのだが、それは別にして、Etsuko が今一番気にしているであろうKeikoのことが全くと言って良いほど何も語られないのは、不気味にさえ感じられる。
 読み終わった後に他の人のレビューを見たところ、Etsukoは所謂”unreliable narrator “であるようだが、僕はん?と少し疑問に思った程度で、仕掛けに気づけなかった。残念。やっぱり英語力がなぁ…。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 9 文学海外
感想投稿日 : 2021年9月22日
読了日 : 2021年9月22日
本棚登録日 : 2021年9月1日

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