赤へ

著者 :
  • 祥伝社 (2016年6月14日発売)
3.40
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本棚登録 : 228
感想 : 35
3

井上荒野の凄みを今更ながらも感じた圧巻の本だった。
文句なしの☆5つ評価。
死にまつわる短編集。この中にはなんと10もの短編が収められているのだが、全く短編とは思えないほど中身が濃い。
一編一編の完成度が非常に高く、それぞれについてじっくりとレビューしたいほど甲乙がつけがたい。

お盆にちょうど読んでいたこともあり、新盆を迎える私の心情とシンクロしてしまったのか思った以上に感傷的になったかもしれない。
でもそれを抜きにしても、この作家の全てを書かずに心の動きをこれほどまでに鮮やかに描き出す手腕はさすがとしか言いようがない。
ちょっと前に読んだ他の作家の理屈っぽい長編小説よりもよほど心打たれるものがある。

印象に残ったのはバーの常連客にまつわる話「ドア」、見ず知らずの人のブログに共感していく主人公の話「どこかの庭で」、そして作者には珍しく社会性のあるメッセージの込められた「雨」。
どの物語も心にと言うか、胃に訴えてくる感じ(笑)
ぎゅーんと掴まれるように切ない、やるせない、遣り切れない。

そしてなんといっても「母のこと」。
これはもう井上さんの完全なる私小説でしょうね。
こんなに身近にまっすぐと感じた事はないくらいひねりもなんにもない。ストレートで端正な文章。
いつもとは違った作家の横顔を見たようでうれしいような悲しいような・・・。
書く事で母の死を乗り越えることができたんでしょうね。
とても良かった。心に響いた。

井上さんの短編の巧さはピカイチだなと改めて感じた作品。
次作も期待しています。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 井上荒野
感想投稿日 : 2016年8月17日
読了日 : 2016年8月15日
本棚登録日 : 2016年8月17日

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