父を葬る

著者 :
  • 幻戯書房 (2009年7月1日発売)
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本棚登録 : 45
感想 : 9
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小説という形をとってはいるものの、ほぼ作者の実体験と言っていいだろう。
九州の高千穂で癌に冒され痴呆も進む父の最期を見つめた作者の弔いの物語だ。

徐々に死期が近づいてくるその様子を軸として、様々に去来する思い出を織り込んでいる。
そのせいか時系列がバラバラで少々読みづらい。
これも作者の心の思うままに綴った結果だろう。
まだ乳飲み子だった頃の記憶から始まり、胸のつかえとなっている曾祖母との出来事、そして父に連れて行かれた小料理屋の様子など現在に至るまでどれもこれも郷愁を誘うものだ。

何と言っても作者の両親が非常に魅力的。
おそらく田舎での閉塞感を感じながらも故郷で教師となった父。その後の彼の生き様は挫折だったのか怠慢だったのか。
ボケてしまってからも端々に感じられる素養の高さと機知。
そしてこんな父をとことん愛しつくした母。
当時では珍し恋愛結婚の果てに町から嫁いできた母は、もはや母ではなく女に戻っていた。

この二人を見つめた作者はどこか傍観者のようである。
二人の中に入る隙がなかったということだろうか。
経済的な援助はしても仕事場が東京にあるのだからいたしかたないのかもしれない。
これも介護の現実だろう。
美しい話に見えてもこれが老老介護なんだと思う。
結局は出来る範囲で最善を尽くすしかないのか。

それにしても、理性的とも思われるノンフィクション作家の作者。
この作者が化学療法を一切拒み、漢方の力にすがるのが興味深かった。
延命治療を決断する場面もしかり。
人間、やはり理性だけではどうにもならない生き物なんだな。
感情があるのだから。

それにしても最後まで一家を支え続けたW医師の姿には胸を打たれる。
家族の思いをまっすぐに受け止め理解し、協力の姿勢を崩さない。
時には医者の領域を超えたような言動も見受けられて。
誰もがこんな医師に出会えることができたら、介護の辛さも緩和されるのかもしれない。
高千穂の自然が人の温かみを育てるのだろうか。
願わくば私もこんな医師に出会いたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2014年8月19日
読了日 : 2014年8月18日
本棚登録日 : 2014年8月19日

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コメント 4件

nico314さんのコメント
2014/08/22

vilureefさん、こんばんは。

>それにしても最後まで一家を支え続けたW医師の姿には胸を打たれる。
>家族の思いをまっすぐに受け止め理解し、協力の姿勢を崩さない。

仕事上の責任を越えて寄り添うということは簡単なことではないですよね。
自分の仕事ぶりを思い返すと恥ずかしくなります。

まず自分の果たす責任を優先させ、線を引き、サービスを受ける側の思いや不安といった曖昧なものに対して耳を傾けない人に遭遇することもありますが、反面教師とせねばと思っています。



vilureefさんのコメント
2014/08/25

nico314さん、こんにちは。
コメントありがとうございます(*^_^*)

nico314さんは医療系のお仕事をしていらっしゃるのかな?
医療やサービス業など直接人とかかわっていく仕事は神経も使うし大変ですよね。
ほどほどに頑張ってくださいね。

私は完全に一人の世界です。
コミュニケーションに飢えています・・・(^_^;)

nejidonさんのコメント
2014/08/29

vilureefさん,こんにちは♪
コメントしようと思いながら遅くなってしまいました。ごめんなさいね。

なかなかハードな一冊のようで読み応えもありそうですね。
素敵な両親の姿を観て育った作者さんだから、思い出をすべて書き留めておきたかったのかもしれませんね。
私の両親も、片方が入院するともう片方が必ず、「わたしがついてるよ」なんてぎゅうっと手を握ってました。
同室の患者さんたちの、あんぐり口を開けた顔を、今も楽しく思い出します。
そうそう、担当の医師によって運命が分かれるところですよね。
心無い言葉を吐いて、患者を凍りつかせる医師も確かに存在しますから。
「先生を頼ってこちらに来てるんですから、今の言葉は撤回してください」
・・真剣にそんなことを言ったこともあります。

ええ?vilureefさんはコミュニケーションに飢えてるんですか?
お子さんがまだ小さいからかな。
うちのにゃんこたちをレンタルしましょうか(笑)

vilureefさんのコメント
2014/08/29

nejidonさん、こんにちは♪
コメントありがとうございます。
すっかり秋めいてまいりましたね。
いよいよ読書の秋でしょうか。
私は夏バテなのか読書が遅々として進んでおりません・・・。
秋になれば復活するかしら。

さて、この本、良かったですよ。
nejidonさんにもきっと気に入ってもらえると思います(*^_^*)
ここ半年くらいで介護について書かれた本を何冊か読みましたが、本当に人それぞれですよね。
男女の差もあるだろうし、夫婦か親子かによっても介護に対する心構えが変わってくるだろうし。
この本に登場する母親は執念的と言っていいほどの介護なんです。
自分で追いこんでどんどん疲弊していくようで痛々しいんです。
時には客観的に意見を言える人がいることも大事だな、などと思いました。
nejidonさんのご両親は素敵な関係だったのですね。聞いてる方が恥ずかしくなりそう(笑)

コミュニケーションに飢えている・・・。
これ仕事のことなんですー(^_^;)
一人黙々とやる仕事なもので。
人間関係のストレスはありませんが、楽しくワイワイ仕事やるって言うのもいいなと。
贅沢ですよね。
家に帰れば息子と猫達に攻められて、一人になりたいと思うこともしばしばです・・・。

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