人類哲学序説 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店 (2013年4月20日発売)
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感想 : 40

梅原猛さんは、本書を執筆した所以を2011年の秋、京都造形芸術大学東京芸術学舍において行なった秋季講座「人類哲学序説」(全五回)の講義録をもとに、書かれたものであることを「あとがき」に述べている。
そして、本書を書いた動機とタイトルにつけた「序説」の意味について続けている。
一つ目の動機として、「本書には西洋哲学への厳しい批判がある」と述べる。「それは、近代西洋文明に疑問を感じ、人類文化を持続的に発展せしめる原理が日本文化の中に存在せしめるのではないかという予感を抱いたからである」と続ける。そして、日本文化の原理が「草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)」という思想であることを見いだした。そのことを考え続けてきたところ、2011年3月11日に東日本大震災が発災し、東京電力福島第1原子力発電所の事故を伴ったことで、被害が拡大した。それをきっかけとして、今までは、西洋哲学への批判をしないできたが、「私は西洋が生み出した科学技術文明を基礎づける西洋哲学を批判しなければならないと思った」と語る。
二つ目は、タイトルの「序説」について述べている。梅原さんは、若い時分は西洋哲学を研究していたが、40歳頃に研究対象を主に日本文化に変えた。この著書で語った日本文化の理論は、日本文化を研究の対象にしてから、今日までの研究成果であることは間違いないと述べる。この著書を書くのにあたり特に西洋文化、西洋哲学をまた研究しはじめた。この著書では、まだ不十分であることは免れないと述べ、今後の研究の成果を元に論じた著書を書かなければならない。そして「その書が、「人類哲学」の本論になるはずであり、本書はその序説であるというわけである。」と語る。
人類哲学とは一体どのような哲学であるのだろうか。梅原さんは、次のように述べます。「人類哲学というのは、今まで誰にも語れたことがありません。人類ではじめて、私が人類哲学を語るのです。これまで、人類には人類哲学がなかった、と私は考えています。」
「「人類」については、この講義全体から理解していただき、…•」と話してる。この本で述べていることを理解することで、「人類」について考えられる工夫がされているのでしょう。
「哲学」という言葉について、梅原さんは、次のように説明します。「哲学とは、愛知(フィロ・ソフィア)-「知を愛する」ことでありますが、これは、ただ漠然とした好奇心というのではありません。もっと厳しいものです。知というのは、真実を明らかにする、ということです。真実を明らかにする知を愛する。その知というものは、ある種の歴史性を持っている。また、普遍性を持っている。哲学とは、歴史の中で人間はどう生きるべきかと問い、その思索を体系化するものです。しかも、それを自分の言葉で語る必要があります」。このように、梅原さんは、哲学とは、人間がどう生きるべきかということを問い、自分の言葉で語るものであるといいます。そして、現在の哲学者と呼ばれる人たちに、厳しい批判を述べます。「ところが、日本の哲学者といわれる人びとは、その多くが自分の思想を語ることをしていません。自分の思想を語る、という哲学で最も重要なことをせず、西洋哲学を研究し、翻訳をして紹介し、その研究を一生の仕事としている方々が多い。本書の意味の哲学といえません」。このような厳しい意見ですが、梅原さんの年齢を考えると、梅原さん流の叱咤激励なのかもしれません。
「草木国土悉皆成仏」という思想はどのような思想であるかというと、「生きとし生けるもの」さらに国土までが成仏できると説明します。生きとし生けるものをみる思想であると語ります。梅原さんは、日本文化の原理としての本質を「天台本覚思想」に見当をつけ研究してきたそうです。なぜこの思想が日本の文化の原理になったかについては、梅原さんは、次のように話します。「私は、伝来した仏教に、それまでの日本の伝統思想が影響を与えたからだと考えます。ここでいう日本の伝統思想とは何か。これは、神道です。…•」。そして、起源を縄文時代にさかのぼります。日本の縄文時代は、狩猟採集文化であったと考えられていますが、梅原さんは次のように話しています。「結論として、「草木国土悉皆成仏」が日本文化の根本思想ですが、それは日本の思想にとどまらず、同時に世界の原初的文化の狩猟採集・漁労採集文化の共通の思想ではないかということです。そして、そのような原初的文化の思想から、現在の西洋文化の思想をどう見るかということを、私は問わなければなりません。それは、つまり、人類の原初的な文化の原理からみて西洋文化はどのような長所と欠点を持っているかという問いです。そして、それは、人類存続の危機といわれる現代において、どうしても問わなければならない問いであるように思うのです」。
梅原さんは、この書籍で、デカルトにその始まりを見出す西洋科学技術文明を基礎づけた西洋哲学に対して省察します。次のように語っています。「確かに、デカルトが理論的に基礎づけた科学技術文明に、現代の日本が大変な恩恵を受けています。しかし、その科学技術文明は、必ずしも人類に幸福な未来を約束するものではありません」。

最後に、梅原さんは、40年前に、歴史学者のトインビーが来日した際のエピソードを話しています。トインビーは梅原さんに次のように言ったそうです。「21世紀になると、非西欧諸国が、自己の伝統的文明の原理によって、科学技術を再考し新しい文明をつくるのではないか。それが、非西欧文明の今後の課題だ」。そして、梅原さんは、トインビーに質問したそうです。「私が、「では、どういう原理によってそのような文明は出来るのですか」と尋ねたら、「それはお前が考えることだ!」と一喝されました」。梅原さんは、40年前にトインビーに言われたことの答えを自分の言葉で、その「序説」を表したということなんでしょう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学
感想投稿日 : 2014年12月25日
読了日 : 2014年12月25日
本棚登録日 : 2014年12月25日

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