荷風は西洋化していく東京を残念がっていました。日本が日本でなくなるという危惧を抱き、変わらない日本の姿を江戸の情緒に求め、花柳界へと足を踏み入れ、やがて私娼の世界にそれを求めたのでしょうか。
荷風のすばらしいところは、自分の足で歩いて観察する姿勢と、品格のある文章です。『墨(さんずい)東綺譚』だけでなく、『日和下駄』やその他の作品でも歩いて観察する姿がよくわかります。
登場人物の「わたし」と、ふとした縁で知り合った私娼「お雪」とのわずか数ヶ月のことを書いています。ふっと現れ、すっと消えるような季節の移り変わりの中で、登場するこの二人にどこか哀切を感じます。
この作品は荷風の日記である『断腸亭日乗』と照らし合わせながら読むと、作家荷風の心の動きなどがわかり、さらに興味深く読めるのではないかと思います。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2015年11月16日
- 読了日 : 2015年11月16日
- 本棚登録日 : 2015年11月15日
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