蝶を飼う男:シャルル・バルバラ幻想作品集

  • 国書刊行会 (2019年8月24日発売)
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感想 : 4
5

刊行当時、タイトルに惹かれつつ見送っていた。じわじわレニエを読んでいる流れに乗ってようやく手を出す。19世紀ど真ん中……!
「ある名演奏家の生涯の素描」「ウィティントン少佐」「ロマンゾフ」「蝶を飼う男」「聾者たち(後記)」を収録。訳者註がけっこうなボリューム。

収録作を全部読んでから解説を読むと、原著のタイトルが惜しくなる。「蝶を飼う男」、たしかに魅惑的だけど! しかし全作に通底するテーマを表すものとして『僕の小さなお家たち』はやはり愛らしくも諧謔的で素敵。とはいえ美しい装丁との合わせ技には唸るしかない。
抑圧される人、排斥される人、理解されない「奇才・奇人」を描く語りの手並みが秀逸。明晰で理性的、夢の陶酔よりも科学の研鑽を思わせる端正さを、鋭い比喩や皮肉をまじえたユーモアと多彩なイメージが取り巻いて、知的で動的で、内的にも外的にもどこか昏く危うく華やかな感触。これにはなんだか、たまらないものがある。
著者は時代をよく見つめた人であるらしく、当時の科学、文学、音楽をふんだんに作品に取り込んでいる点も興味深い。「ある名演奏家の生涯の素描」のイタリア人演奏家、「ウィティントン少佐」の自動人形は鳥肌物。訳者註を逐一併読しながらおおいに堪能した。すごい仕事ぶりだ……。
ド・サルキュスが自動人形に見る「奇異で、悪夢のような効果」と、彼が持つ「人間の知性を抹殺する傾向のある機械」への興味にまた鳥肌。はじめ奇異に思われた自動人形の価値を、彼らが行う芸術活動によって認めたなら、科学が芸術≒文学を殺し、人間の手から奪うという警鐘ないし風刺でもあるのか。盗みに入った詩人の始末は一見慈悲深く、その実どこまでも詩人を認めていない。著者自身文学の人でありながら、この容赦のなさはいっそ恐ろしい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年7月25日
読了日 : 2021年7月25日
本棚登録日 : 2021年7月25日

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