水を守りに、森へ: 地下水の持続可能性を求めて (筑摩選書 32)

著者 :
  • 筑摩書房 (2012年1月1日発売)
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感想 : 10
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サントリーの水源保護事業の事業部長の本。こんなん読んだらまた白州・山崎行きたくなっちゃうよ。。。


 日本の林業が終わっているってのはわかっていたが、今ここまできているとはね。

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p22 軟水のワケ
 日本は軟水で、海外は硬水である。それは日本と海外の土壌の質の差も関係しているが、保水力の差が大きい。
 日本は国土が狭いため、地中を流れる地下水が湧出し海に流れるまでの時間が短い。そのため水にミネラル分があまり含まれない。海外はその逆。

p51 7000haの反応
 サントリーの水源涵養力調査の範囲は7000haもあった。普通の企業じゃそんな無駄に見えるようなことに手を出さない。サントリーの社風が気の長い仕事に慣れてきたからであろう。「まぁ、やってみなはれ」の精神

p58 植樹で水が減る
 植樹すれば森の保水力が簡単に増えるかと思ったら大間違い。適切な植樹でなければ逆効果になる。
 植樹すれば雨の水はその木や葉に付き、地面に到達する前に蒸発する分がある。また、木は蒸散によって水を地面から吸い上げる。つまり降水量の多い土地でなければ、植樹は逆に土地の水分を蒸発させる効果しかない。
 中国やオーストラリアで植樹の結果、井戸水が枯れたという事案もある。

p68 不耕起
 地面を耕すのは、何も人力で掘り起こさなくても、雑草に頼めば良い。
 地に深く根をはる植物は、成長とともに根も伸びる。そういった雑草を固い地面に撒く。草が生えてきたら、根元で刈って、根は残す。そうすると、根はそのままで新たな草が伸びてくる。根はさらに深く伸びる。これを繰り返していけば、雑草が深く地面を掘り起こしてくれて、自然に地面が柔らかくなる。これが、不耕起。

p73 なぜ植えたのか
 昔の人は山奥の急峻な土地にも植樹してした。感心するばかりだが、その本心は「植えるだけ植えて、管理も伐採もする気はなかった」なのだ。植えれば植えるだけ補助金がもらえたのだから、そういうずるがしこさが働くのも訳ない。

p77 林道
 林道って作るのにすごい技術と知識がいる。適当に作った林道は水の通り道によって浸食されて崩れる。
 林道は目的地へ最短距離をとりがちだが、地形に合わせて設計しないとすぐに崩れる。山道こそ急がば回れ。

p91 なすび狩り
 林道を作るのに補助金が出る。それに集って、林道を作って良い木材だけ伐採して、その後は山を放置する。茄子の収穫も大きく育ったものから獲って、出来の悪いものは残しておく。
 一度しか使わない道を作って(補助金で)金になる木だけ獲って放置する、あくどい考え。林道造りはこういう蛇の道もある。

p99 苗木は喰われる。
 鹿害が深刻。植樹で植えた木も、鹿に喰われる。自然に生えた若木よりも、植樹した苗の方が喰われる。手塩にかけた苗の方が栄養価が高いからか、虫にも食われる。

p102 林業組合の現実
 仕事のない林業組合は技術がない。プロのはずなのに、サントリーの職員に逆にやり方を聞いちゃう始末。

p108 ヒノキの危険性
 ヒノキは杉の木よりも悪質。ヒノキ林では腐葉土はできない。
 ヒノキの葉っぱは落ちても崩れてすぐに飛ばされてしまう。それに、ヒノキは雨水を葉っぱで貯めて、大粒にして地面に落とす。そうすると地表が吹き飛ばされやすくなり、流失しやすくなる。その結果、ヒノキ林の地表は裸で下草も育たない。

p130 鹿の保護
 戦後の食糧難で鹿は過剰に捕獲された。さらに駐屯軍のスポーツハンティングの餌食になって絶滅の危機になった。
 その後の保護政策で減少は食い止められた。さらに、林業の推進策で、伐採と植樹が進んで大量の雑草が生える環境が山にできた。それがエサになり鹿は増殖した。現代では雪道の凍結防止塩が冬場のエサになり、若鹿の死亡数が減り、鹿の増殖を後押ししている。

p132 ヤマビル
 鹿が増えるとヤマビルも増える。鹿がエサになるし、移動手段になる。鹿が山から下りてくれば、ヤマビルもやってくる。ぎゃあ

p139 孟宗竹は外来種
 江戸時代に中国から渡来した外来種である。奴らは猛威を振るっている。山崎の天王山も浸食されている。見てくれば良かった。

p144 日本の国蝶
 オオムラサキなんだって。ちなみに平氏の家紋はアゲハチョウ

p148 どんぐりは不作ではない
 近年、クマなどの山の置物が人里まで下りてくる理由として「どんぐりなどのエサとなる実が山にないから」というが、実はどんぐりではなく、どんぐりが実る木がなくなっているのである。
 カシノナガキクイムシという害虫のせい

p151 ほったらかし
 昔の人は山を「ほったらかし」にしていれば元通りになって、再生産可能だったなんて言っているが、ちゃんと管理していた。
 木を伐採しても、新芽が何本も伸びてきて鬱蒼としてしまう。適度に間引きしなければならないが、昔の人は芝刈りと称して、ちゃんと間引き管理をしていた。
 昔の人の言う「ほったらかし」を簡単に信じてはいけない。

p153 人工林とは
 現代の人のイメージは人工林は「スギ・ヒノキなどの木材を植えた林」だが、昔ながらの里山も立派な人工林である。
 きちんと管理した山林ほど美しい。 天然のありのままの山なんて、踏み入ることもできないジャングルで、美しくもなんともない。

p169 マツノザイセンチュウ
 海外から来たもの。松に取り付いて、松脂の分泌を抑える。松に寄生する、マツノマダラカミキリと共生して、松を絶滅に追い込んでいる。

p175 炭スゴイ
 マツノザイセンチュウ対策は、松の根元に炭を埋めるだけ。そうすると、松の根につく菌根菌が活性化して、松自身が強くなる。

p179 ウイスキーの松と竹
 白州蒸留所は松林が多い。だから森の香りや柑橘類のような香りが漂うようになる。
 山崎蒸留所は竹林が多い。だから重厚な味わいの香りがする。
 らしい…。イイハナシダナー。

p186 常緑樹
 日本の原風景は落葉の広葉樹であっただろうというイメージが多い。そうでないところもいっぱいあるらしい。常緑の広葉樹が潜在植生で、関東以西ではその傾向があったらしい。

p191 人工の地下水
 田んぼに水をためるのは涵養力がある。田んぼを耕作放棄地にすると井戸が枯れることもある。

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 思いのほか面白かった。

 日本の林業は投資しても回収できないんだから、無理して金つぎ込んでも意味はない。と思っていたけれど、「情けは人のためならず」なるんだなー。

 ウイスキー造りは日本が適地だったんだなー。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 自然
感想投稿日 : 2014年11月14日
読了日 : 2014年11月14日
本棚登録日 : 2014年11月1日

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