風は山河より〈第3巻〉 (新潮文庫)

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  • 新潮社 (2009年11月28日発売)
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桶狭間で横死した 今川義元。その印象がどうしても強いので、駿河の今川氏と言うと弱い大名、貴族趣味に溺れた守旧的な守護大名、というイメージがあるのかもしれない。

しかし この時期の今川氏は違う。同盟の計略をもって北条氏を駿河から追い出し、東が安定したとみるや 西の三河ににすばやく楔を打つ。それは怪僧太田雪斎がいたからだと筆者は言う。尾張の織田信秀が戦国大名としてまだ自立していなかったこの当時、雪斎の頭の中には駿河から尾張まで東海四ヶ国と、更には京都に至る地図が描かれていたのだろう。

一方で今川義元よりも京に近い織田信秀。守護代ですらないのに伊勢神宮の改築に金を出す彼の眼は、明らかに都を向いていた。伊勢から大和路か、美濃から近江路か、今日でいえば近鉄かJR東海道線かの選択はまだできていなかったかもしれないが、美濃に梟雄斉藤道三が現れなければ、織田家の天下統一の道はもっと早く開けていたかもしれない。

しかし本書の本題は、その両雄に挟まれる三河松平家である。上洛の道を開こうとする今川家の前線基地になるか、同じく西進を目指す織田家に後方の安堵を提供するか、今日の眼で見れば、松平広忠は前者を選び家中を苦難に陥れ、子の代になって家康は信長と後者の道を選び、徳川家は東へと伸びていく。武将としての勇敢さを持ちながらも戦国大名としての戦略眼に欠けていた広忠ではあるが、大久保、本多、酒井といった後の老中首班クラスの先祖たちは支え続ける。それも三河の山河の所以である、と筆者は言うが、功成り名を遂げた子孫たちの脚色が入っているのではないか、と私は少し疑ってみたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2014年1月26日
読了日 : 2014年1月19日
本棚登録日 : 2014年1月19日

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