文庫版 鉄鼠の檻 (講談社文庫)

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本棚登録 : 6049
レビュー : 537
著者 :
ウエッチさん 日本現代小説   読み終わった 

「禅問答・入門編」

<マイ五ツ星>
兄妹:★★★★★

<あらすじ>-ウラ表紙より
忽然と出現した修行僧の屍、山中駆ける振袖の童女、埋没した「経蔵」……。
箱根に起きる奇怪な事象に魅入られた者-骨董屋・今川、老医師・久遠寺、作家・関口らの眼前で仏弟子たちが次々と無惨に殺されていく。
謎の巨刹=明慧寺に封じ込められた動機と妄執に、さしもの京極堂が苦闘する、シリーズ第四弾!

<お気に入り>
「……全く救いようのない馬鹿だお前は」
 敦子は黙った。
 (中略)
「しかしこれは警察の手落ちですよ。あんな危ない山道を-せめて警官ひとりくらい」
「それは違うよ。殺人者がうろうろしている殺人現場にのこのこ潜り込む民間人の方が悪いのだ。警察に一切の落ち度はないよ。鳥口君は一本道でも迷うんだ。お前だってそのくらいは知ってただろうが」
「-ごめんなさい」
「まあいい。もう寝ろ。明日以降は温順しくしていろよ。警察の事情聴取にだけ協力しなさい。後は動くな。用が済んだらさっさと帰れよ」
 敦子はもう一度兄に頭を下げた。京極堂はその様子を憮然として眺め、そのまま立ち上がった。

<寸評>
憑物落しを生業とする古本屋・京極堂こと中禅寺秋彦と、友人の小説家・関口、探偵・榎木津らが、次々と起こる「不思議なもの」の真相を解き明かす“京極堂シリーズ”の第4弾。
今回は箱根を舞台に、土砂に埋もれた古書蔵、山を徘徊する振袖の少女、表舞台に名を知られない禅寺、そして坊主連続殺人……、それらの謎に京極堂が迫る。

本作は偏に“フーダニット”すなわち“犯人は誰か”に集約される。
十三年前に起きた放火殺人、数年来同じ姿で目撃される歳をとらない少女、今回の連続殺人、それらは誰がやったのか。二転三転しつつ展開する中で、京極堂は言う。
「この世には-不思議なものなど何ひとつないのだよ。関口君」

京極堂シリーズにはミステリー的魅力に加え、京極堂によって語られる蘊蓄が定番となっているが、今回は舞台が禅寺ということもあって、登場する僧たちも、まあ語る語る。普段小難しく聞こえる京極堂の語りも、禅僧たちの言い回しに比べるとはるかに解りやすく、聞き役の関口たち同様に読者もまた禅のなんたるかを京極堂によって学ぶこととなる。

他方、物語を軟らかくしてくれる、天才・榎木津は、今回も大活躍である。第1作以来の登場となる久遠寺翁との名前を巡る掛け合い(「熊本さん」「九能さん」「九文字さん」…といくつ出てくるのか)が笑いを誘い、心地良いリズムを生んでいる。
そして、彼の“過去を観る能力”が、所々で伏線を張り、楽しませてくれる。

いつもは難儀に扱う兄の前で萎れる妹敦子と、言外に本気で心配していたことを窺わせる京極堂との兄妹の絆も垣間見られる、長編1342ページである。

レビュー投稿日
2012年6月28日
読了日
2010年4月9日
本棚登録日
2012年6月28日
1
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