変身 (新潮文庫)

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本棚登録 : 10818
レビュー : 1338
制作 : Franz Kafka  高橋 義孝 
ウエッチさん 海外文学・古典・小説   読み終わった 

「妹よ……」

<マイ五ツ星>
もう潮時だわ:★★★★★

<あらすじ>―ウラ表紙より
ある朝、気がかりな夢から目をさますと、自分が一匹の巨大な虫に変わっているのを発見する男グレーゴル・ザムザ。なぜ、こんな異常な事態になってしまったのか……。謎は究明されぬまま、ふだんと変わらない、ありふれた日常がすぎていく。事実のみを冷静につたえる、まるでレポートのような文体が読者に与えた衝撃は、様ざまな解釈を呼び起こした。海外文学最高傑作のひとつ。

<お気に入り>
母親は一歩わきへ寄って、花模様の壁紙の上にある巨大な褐色の斑点を見てしまい、自分の見たものがグレーゴルだということをそもそも意識する以前に荒々しい声で、「助けてえ、助けてえ」と叫ぶなり、まるでいっさいを放棄するとでもいうように両腕を大きく広げて寝椅子の上へ倒れて、動かなくなってしまった。妹は「兄さんったら」と拳固を振りあげてグレーゴルをにらみつけた。これは変身以来妹が直接兄に向って言ったはじめての言葉であった。

<寸評>
 NHKEテレ(旧教育テレビ)の「100分で名著」なる番組で出会った作品。もともと海外の作品にはほとんど手をつけていなかったため、番組に引っ張ってもらいながら読むこととなったが……。
 「名著」というだけあって、なるほど面白い。そもそも設定が、主人公が朝起きたら虫になっていたという突飛なものであり、しかもなぜそうなったのか一切説明がなされない。何しろ主人公グレーゴル自身、「やば、会社遅れる、どないしよ…」みたいに、虫になったことの疑問はそっちのけで日常のささいな心配をしている。家族(父・母・妹)に驚かれ恐れられ、次第に疎まれ孤立していく主人公に何を感じるか、一切は読者に委ねられている。

 番組内で伊集院光氏が、「ひきこもりの心境に似ている」と指摘していた通り、人付き合いに疲れ、孤独を求め、しかし社会とも折り合いをつけて……と悩み多い現代、もっと読まれてもいい作品であるが、小生の琴線に触れたのはそこではなかった。
 <お気に入り>に挙げた場面である。読んだことのある人からは「エッ、そこ……?」と思われるかもしれない。
 妹の様子があまりにも無邪気に思えたのだ。まるでイタズラをした兄に「めっ!」をするかのように。相手は大きな虫であり、気味の悪い存在であるのに……。この妹の態度の不自然さに違和感を感じ、読了後、妹だけに注目して再読した。
 この作品、小生は妹が「少女」から「女」に変身する成長譚のように思えた。冒頭では兄の会社の上司が怒鳴り込んできたぐらいですすり泣くようなか弱い存在だった妹が、兄の変身には動じず、あたかも母性を発揮してペットや病人に対するように掃除や食事の世話をする。そして、家庭の危機が訪れたときには、いの一番に現実的な、社会と折り合う選択―虫=兄との訣別―を家族に提案する。そのときの断固たる態度は、まさに一人前の強い「女」である。ラストシーンでは、そんな強く美しい女に成長した妹に、両親はそろそろ嫁入りかと感じながら、物語は幕を閉じる。

 誰に、あるいは何に注目するかで、三者三様の読み方ができる「名著」である。

レビュー投稿日
2012年7月16日
読了日
2012年5月21日
本棚登録日
2012年6月21日
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