華竜の宮 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

4.22
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本棚登録 : 836
レビュー : 152
著者 :
制作 : 山本ゆり繪 
whiteprizmさん 小説・マンガ(含☆4,5)   読み終わった 

面白かった。

SF的主題はカタストロフィへの戦いになるのだけれど、主人公が外務省の役人で、外交がドラマの舞台になっている。その交渉的戦いが良く書けていてずっと飽きさせない。そきちんと人間が設定されていて、それを表に出さないでいる人間の言動にリアリティが感じられる。

陸と海の社会が対立的で、主人公は陸にいながら海を対等な相手として見られる人物である。
なので、その視点に引きずられて海の社会の生態の特異性にまず惹かれる。海の人は双子で生まれ、片方は人、片方は魚船という船・居住区・魚を兼ねたような生き物として誕生する。魚船は生まれるとすぐ海に放され、成長できるまで生き延びた者が帰ってきて人とまた出会うとパートナーとなる。魚船がパートナーと出会えないと獣船という存在となり、人に害をもたらす大きな獣となる。
その社会の不思議さに思いを馳せて物語を読み進めていくので、最後の方になるまで気付けなかったのだけれど、陸側にも似たような生まれた時からのパートナーが存在する。そちらはアシスタント知性体といい、小さなときから共に育つAIだ。

AIが一人の人とセットで成長し、その身体情報や感情をFBされ得るという事自体、人工知能の設定として興味深いのだけれど、遠いギリシャ神話時代から人生のパートナー/運命の片割れ、は大きなテーマの一つだ。
現実ではそれは自分の外に理想として求めていると思う。でも本当は、それは自分の心の内にこそ存在する。ユング心理学の影(シャドウ)がそれで、それは自分のコンプレックス、生きる内で、人生の岐路に、選択することのできなかった可能性だ。この物語ではそれを形にし、人格を与えることで、一つの人間にとっての大きな可能性を語ることができる舞台が作られている。

著者は狙っているのか、それともその物語に美しさを感じて自然に書いているのか、分からない。もう一つ読んだ短編はAIの物語を更に深めたもので、アシスタント知性体と自己の電子的コピーと純粋AIに関しては、著者が日常的に考察しているテーマなのだろうと思うけれど、魚船の設定もパートナー的で、なんだかそれだけではない著者独自のロマン(またはコンプレックス)を感じる。


・「だから、あなたをきちんと育てて、ひとりで生きていける大人にして、きっちりとお別れをする…。それだけで彼は、自分の罪をほんの少しだけ償える。心が救われるの。少しだけ幸せになれるのよ」
「本当に?そんなことだけで?」
「ええ。それは彼の心の中に、きっと温かい灯をともすでしょう。たとえこの先、どんなにつらいことが待ち受けていても、エドはそれを頼りに耐えていけると思うわ」

・《人間は劇薬と同じだ》
《劇薬?》
《その人物が置かれている立場によって、毒にも薬にもなるという意味だ。当人の本質が善か悪かなんて、まったく関係がない。ある立場の中でどう振る舞うか、他人がそれをどう見るか―その違いだけだ。本人が薬だと思っているのに、周囲から毒薬認定される場合もある。逆も同じだ。ある程度以上の地位にあり、多少は頭が回る人間なら、言葉にも二重三重の意味を含めるはずだよ。ストレートに受け止めない方がいい》

レビュー投稿日
2013年10月17日
読了日
2013年10月17日
本棚登録日
2013年10月17日
2
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