徴候・記憶・外傷

著者 :
  • みすず書房 (2004年4月2日発売)
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・迷路というものは入ったらなかなか出られない。確率的には稀だが、迷路に入っても障害にぶつからずすっと出られる場合がありうる。それが事故である。
・うつ病は一番得意と本人が思っている能力がまっさきにやられるからつらい。統合失調症は自分がかねがね持ちたくて持てないと思っていた能力が向こうからやってきて手に入りそうに思えるから誘惑的だ。チェルノブイリもメルトダウンの直前は400倍の出力が出たと言う。
・自分の手首を切るとか、中二階から飛び降りるとか、行きずりの人を殴るという事があるが、殴るという行為の瞬間は心身が一まとまりにまる。
・治療の方針
①治療だけを行う。データが揃わなくてもよいから、患者に有益でない質問などの侵襲を行わない。
②まず有害なことをしない。前進する展望のない時は現状維持に努めた。
③科学は極めて限定された力である。なので、科学や原則に拘らずに良いとされることは、有害性が予見されない限りやってみて、駄目ならすぐにやめる方針を取った。因果関係を考える事は、複雑な事象においてはしばしば過度の単純さあるいは端的な誤りに導かれるのを経験していた。やって成功なら良いし、駄目でも今より悪くならないような治療法を捜索した。見つからない時には事態が変化して、何かのための手がかりが見えてくることを期待してただ待った。
④自分が出来ないことを患者に要求しない事にした。私が先を見通せない時に、患者に先の計画を尋ねたりしないようにした。
⑤指導はしばしば患者の意向を分からなくさせるため、可能性を並べて患者になるべく委ねようとした。
⑥当分、効率を考えない事にした。精神科医というものは、非常に複雑な事象を前にしているのに観察密度は生物学に比べ、はるかに粗であるという印象があった。友人の歴史学者の「年表が書ければしめたものだ」という一句に啓発され、現場に百度足を運ぶという刑事のモラルを採用した。
等々。

・いくら願わしくても木のレールの上に汽車を走らせる事はできない。

・自然な虫の知らせに耳を傾けないからこそとんでもない妄想に頼るのである。

・患者が失った40年は帰ってこない。けれども、現在を変えることができれば、その過去への見方を変える事ができる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 心理・カウンセリング ☆4,5
感想投稿日 : 2011年12月1日
読了日 : 2011年12月1日
本棚登録日 : 2011年12月1日

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