八十歳のアリア: 四十五年かけてつくったバイオリン物語

著者 :
  • 文春ネスコ (1992年6月1日発売)
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感想 : 5
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秋なので、やたらと心に沁みました。字が大きくてすぐに読めます。
どうせ死ぬのに、何のために生きるのかと学生の時から考えていたそうです。級友が一人青酸カリで自殺しました。「何のために生きるか発見するために生きる」という名言を授けてくれた先生もいたそうですけど。
その彼の紆余曲折と、45年経て完成したバイオリン。
生きる理由なんて見つからなくて、とりあえず親とか子供とか、死なない理由があれば自分の生きる理由を棚上げにして。棚上げにした代わりに近くにずっとあったものが、人生の結果として僕の影響を受けてそこにある。自分もそこから影響を受けていて、自分がそのために生きてこれたような、最初そんなことは少しも思っていなかったはずなのに。
そんな人の人生の不思議をまとめた、論理の人が自分の不得手な感情と感覚の機能を使って荒削りに、自分を生かしていたものの真ん中にあった何かを書いた本。

・「敗戦の宣告」によって、生の意義を奪われてしまった僕にとって、このバイオリンは、「自殺から僕を救ってくれたバイオリン」だ。一人の人間には、ひとつの命しかない。それと同じで、命とひきかえに誕生した楽器だから、たったひとつしかこの世に存在しないのである。

・僕がつくったバイオリン”ヒデオ・イトカワ”号は、「メニューインという神が弾いた」というひとつの神話を出発点として、これから独り歩きをはじめてゆくことだろう。
これで、僕がバイオリンをつくった物語は終わりである。
四十五年かかってバイオリンをひとつつくりながら、僕は生きてきた。僕は、”ヒデオ・イトカワ”号の音を聴くたびに、ほんわりと幸せな気持ちになる。生の日々がどんなに辛く苦しくとも、僕たちはバイオリンの美しい音色とともに、生きていけるのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 伝記・体験
感想投稿日 : 2013年11月7日
読了日 : 2013年11月7日
本棚登録日 : 2013年11月7日

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