志賀直哉の弟子、阿川弘之による伝記。
上下合わせて千ページ越えの大作。正直なところ全部が全部興味深く読めたわけではないが、読む前のイメージに反して、実に素晴らしかったというのが素直な感想。
志賀直哉自身もそうだが、その周辺の人たちが鮮やかに描き出される。武者小路実篤、梅原龍三郎、広津和郎、里見弴といった同時代人や、瀧井孝作、尾崎一雄、網野菊、直井潔といった弟子たち。今やこういう人達は講談社文芸文庫あたりでないと読めない。彼らの作品にもまた触れたいと思ったが、直哉自身の作品についてもまた読んでみたいという思いが強くなった。「万暦赤絵」とか昔読んだが、たぶん10代で読んでもなんだかわからないのだろう。「山鳩」は読んだのだろうか。最も読んでみたいと思った一編である。
いろいろと興味深い点はあるが、一つ「日本の国語をフランス語に」のところをとりあげたい。志賀直哉自身、達意の日本語の駆使者というイメージであるが、その直哉が「いっそのこと公用語をフランス語のようなものにすればいい」という発言をしているのである。その発言に対し、阿川弘之もかなりのとまどいを見せている。どのように先生の発言をとらえればいいのだろうかと。この発言自体は、真意はわかりかねるが、ひょっとすると思いつきなのかもしれない。日本語との格闘の末に、なんと扱いづらい言葉であるか、という思いがしたのかもしれない。この時代の人はみんな苦労していると思う。ただ、それに「ショックを受けた」という阿川弘之自身の率直な思いや、それについて何か言及したものが他にないかどうかを調べるその姿勢。そういった熱意がこの本全体を支えている。
「葬送の記」あたりは涙なしに読めなかった。
- 感想投稿日 : 2011年9月18日
- 読了日 : 2011年9月18日
- 本棚登録日 : 2011年9月18日
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