軽いタッチの幻想小説が収録された短篇集。
気になった作品にコメントを。
「青色夢硝子」…長野まゆみに「アレフ」を接続したような話。初出87年なので長野まゆみのデビューより早い。
「林檎料理」…雪舟えまっぽい感覚手渡し系の文体で、作風としては本書のなかで一番面白かった。大手拓次のほか、いろんな近代詩のコラージュのようになっている。
「ほんたうの夏」…賢治SF。これも長野まゆみっぽい。プログラムの構造はぼんやりしてるところとか(笑)。長野まゆみなら絶対兄弟にするけど、この作品は兄妹だからこのあと二人で子を作るのかな、とか考えだすと「瓶詰の地獄」。
「出勤」…これが一番よかった。ディストピアの日常系というジャンルは珍しくないけど、孤独のグルメ的「これでいいんだよ、これで」精神で全部済ますのが笑える。乱歩特集の雑誌に掲載されたのだそうで、他に中井英夫特集に書いたという作品もあったけど、こっちのほうが中井英夫っぽいと思う。
「ガール・ミーツ・シブサワ」…この読書遍歴で2001年にゴスに目覚めた人が、嶽本野ばらに言及しないことある?とか、矢川澄子も澁澤の元妻としてしか触れず著作を読んでないふうなのはなんでとか、このシーンは絶対澁澤軍歌うたってるでしょとか、無限にツッコミを入れてしまう。『森娘幽界異聞』を引き合いにだされちゃうと、笙野頼子って面白くって偉大だよなぁ。ゴスロリにとっての<救世主シブサワ〉は興味あるテーマだけど、ここはご自分と同じ性別と年齢の語り手を設定するべきだったんじゃないでしょうか。
嫌いじゃないし上手だと思うんだけど、『月光果樹園』を読んでツボが違うかもと思ったのを再確認した感じ。
- 感想投稿日 : 2023年3月4日
- 読了日 : 2023年2月24日
- 本棚登録日 : 2023年3月4日
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