わかったかわからないかと聞かれると正直わかってはいない気がするけど、嫌いではない。
変な電話で連れ出されて海芝浦へ行くまでの、車窓から見える京浜工業地帯を夢現でスケッチしているような「タイムスリップ・コンビナート」がいちばん好きです。いきなりマグロ(のような何か)と夢のなかで恋愛している、という冒頭の期待を裏切らないヘンテコな小説でした。
ホームの片側が海に面していて、改札口は東芝の工場の門に繋がっているから社員以外は出られないという「海芝浦」はいかにも架空の駅っぽいのに実在していたりとか、あくまで現実のこの日常の話なのに、「沖縄会館」を「沖縄海岸」と聞き間違えていきなり海へ連れて行かれてしまうような、不安な時空間。
祖先が蘇ってきて、生者死者入り乱れて奇想天外な法事をする「二百回忌」はすごい迫力だった。よくこれだけ滅茶苦茶なイメージを幻視して文章化するなあと思います。「真っ赤なタカノツメを木綿糸に通してネックレスを作り、大鍋に沸騰させた湯の中へただ放り込んだだけの」トンガラシ汁とか、家がタコみたいな形で蒲鉾で出来ているとか。
地面から生えてきた「凄まじい程の美少年」が、「千年にひとりの珍しい男フェミニスト」と喝采されるところが妙に苦い。
「なにもしてない」はつらい。超つらい。作家志望者は読んだら鬱必至。三十を過ぎて親から仕送りを受け、働かずに引きこもって売れない小説を書き続けるなんて苦行すぎる……「なにもしてない」で、「なにもしてない」という自意識に苦しみながrひたすら書いているからこそすごい幻視ができて、表現を研ぎ澄ませられるのかも知れませんが……。働くほうが圧倒的に楽ですよ……
あとアトピーの描写がリアルかつ詳細すぎて軽くスプラッタの域。
- 感想投稿日 : 2010年10月24日
- 読了日 : 2010年9月18日
- 本棚登録日 : 2010年8月16日
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