現代政治学入門 (講談社学術文庫 1604)

  • 講談社 (2003年7月11日発売)
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感想 : 28
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政治学入門として定評のある本らしいが、これから政治学を学ぼうとする高校生に「響く」かと言えばやや疑問だ。政治学が何を対象にどんなアプローチで研究を行うのか、また隣接する学問分野とどういう関係にあるのかを大掴みに理解するには便利な本ではある。ただ一通り政治学を学んだ上でないと著者が本書にこめた意図を正確に掴みにくいのではないか。むしろ政治学を教える教師に向けて書かれた(話された)本と言った方がいい。

評者は歴史や理念を重んじる傾向の強い大学の法学部で政治学を学び(本書が書かれた80年代後半)、理論と実証を重んじるアメリカの大学院で公共政策を学んだ(90年代前半)。今は実業の世界に身を置いているが、科学的装いのもとに説明モデルが「洗練」されていく一方のアメリカ政治学に対する著者のシニカルなスタンスには共感するところが多い。

政治学が学問である以上普遍化を目指すのは当然であり理論を軽視すべきではない。だが理論を構成する概念をどれだけ細分化し精緻に練り上げたとしても、それが言葉である以上価値が紛れ込むのは避けられない。ましてや政治が価値の分配に関わる営為である以上、政治を研究するという行為自体に一定の規範的態度が要請される。その自覚を欠いた理論は研究者の価値観の押し付けになりかねないことを銘記すべきだ。自然科学のような実験ができない社会科学にとって比較は有効なツールだが、比較のための類型化の中に政治はいかにあるべきかという価値意識が含まれている。例えば「発展途上国」という類型があらゆる国が西洋的な発展をたどる(あるいはそれが望ましい)という見方を暗に想定しているように。

であればこそ理論に埋め込まれた価値観やその母体となる理念、文化、歴史についての関心が政治学には不可欠なのだ。だから政治学は必然的に学際的な学問たらざるを得ない。評者は本書のメッセージをそう受け取った。いい意味でのディレッタント、或いはアマチュアリズムとも言うべきか、社会科学が専門分化していく中にあって、古き良きイギリスの伝統を感じさせる渋味のある一冊だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2024年2月3日
読了日 : 2024年2月3日
本棚登録日 : 2024年2月3日

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