二つの川が交わる風光明媚な村に暮らす小学生の兄弟、そこにほんの三ヶ月だけ引っ越してきた少女。彼らの友情を描く第一部は、とある悲劇で幕を閉じる。それから数年、高校生の凌汰は夏休みのバイトとして幼馴染みたちと廃校の小学校を片付けていた。そこへ東京から二人の女子高校生が訪れる。ひとりはかつて友情を育んだ少女「雨ちゃん」だった。再開した彼らはとある事情から廃校に宿泊するのだが、そこで再び悲劇が幕を上げる。
青春と密室。著者の持ち味は今回も期待どおりに鋭い。青春は風が吹き抜けるように爽やかでどこかノスタルジックで甘酸っぱい。そこに張り巡らされた伏線と密室トリック。その謎の強度は決して強力ではなく、手探りで組み立てて解ける丁度よいレベルのパズルだが、物語との親和性は高く、解る快感とエモーショナルな心の揺れが絶妙にシンクロする。
とある点においてその必然性への批判は想定でき、そこが評価の分かれ目になることは避けられないと思われるが、好みを明確に分かつ一方でハマれば手放しに褒めたくなる。
またノンシリーズだが、同じように「密室」を冠する『夕暮れ密室』に通じる犯人の造形なども、これまた好みを分けるところであろうが、好きな人はたまらないだろう。
個人的には青春には徹底的に光属性と闇属性があると思う。爽やかさやエモさ切なさなど青春を彩る要素は多岐に渡るが、それを明るくまとめ上げるものもあれば、どこか影が差す物もある。『夕暮れ密室』は闇属性だなと思ったのだが、この作品には闇を感じながらも光も感じ、どうにも不思議な余韻が残った。
タイトルも内容も風に彩られているだけに、清らかで優しい顔と邪悪で荒々しい顔とを併せ持った風のような青春ミステリだった。
- 感想投稿日 : 2022年6月30日
- 読了日 : 2022年6月29日
- 本棚登録日 : 2022年6月30日
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