隻眼の少女 (文春文庫)

3.21
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本棚登録 : 1248
レビュー : 191
著者 :
らきむぼんさん ミステリ・推理   読み終わった 

山深き寒村で、大学生の種田静馬は、少女の首切り事件に巻き込まれる。犯人と疑われた静馬を見事な推理で救ったのは、隻眼の少女探偵・御陵みかげ。静馬はみかげとともに連続殺人事件を解決するが、18年後に再び惨劇が…。日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞をダブル受賞した、超絶ミステリの決定版。


・レビュー

この小説は麻耶作品の中では比較的読後感がライトなものだといえると思う。
初心者向けの麻耶作品を挙げるなら多くの麻耶ファンはこの『隻眼の少女』と『螢』を挙げるようだが確かに読後の衝撃の度合いとしては入門編的内容かもしれない。
とはいえ、別段この小説が麻耶作品の特徴の公倍数から外れているわけではない、もちろん『螢』も。麻耶作品としては初心者向けかもしれないがそれはミステリ初心者向きという事にはならず、やはりミステリ初心者で麻耶作品未読ということなら初読は『螢』だろう。
この『隻眼の少女』はミステリ初心者だと全てを理解するのにやや難解さが残る。

長編はほとんど強烈なカタストロフによって強烈な印象を残す麻耶雄嵩の小説の中では、『隻眼の少女』は一見するとライトで受け入れやすい本格モノ風の進み方をする。
ミステリとして非常に読みやすく、キャラクターも狙いすぎな感もあるほどの漫画・アニメ的特徴を備えている。
ただしここには幾つかの罠が当然仕掛けてある。麻耶雄嵩の作品が普通に落ち着くなんてことはまずあり得ない。

まずは「意外な展開」だろう。正直ミステリファンからするとこの小説の面白さは「まったくそこじゃない」のだけれど、ミステリファンではない人やたまにしかミステリを読まない人からしたらこの「意外な展開」は本格風の物語の進行から一気に魅力的に惹きつけるポイントだと思う。

そして次に麻耶特有のアンチミステリ的要素。ミステリファンならおそらくこっちがメインだろう。さあ、今回のテーマはどの枠組みに「問いかける」ものなのか、楽しみにしていいと思う。この点でこの小説は絶大な価値を持っている。

物語は二部構成だ。
スガル様という現人神が崇められる村の名家で連続殺人が起こるという、本格推理的な舞台設定で、種田静馬という主人公(語り手)とで探偵の御陵みかげが、探偵と助手として事件に挑むストーリーである。
そしてその事件が解決してから18年後、非常に印象深い結末に向けて再び殺人事件が起こる。

テーマは「探偵とその推理」であり、ミステリ読みなら一度は考えることになる、「探偵」についてのある懐疑を物語の軸に据えている。この小説では読者の推理や犯人当てはほとんど意味が無いのであるが、それでも犯人を当てるつもりで本気で突き詰めていくと体感的にミステリの根幹的問題点に行き当たって面白いのかもしれない。

ブログの方に詳細は書くけれど、この小説は浅く読むか深く読むかで評価が二分しやすい。もちろん「しやすい」というだけで必ずそうなるわけではないけれど、深く読むと興味深いのだが表面的に読むとやや苦しい部分があるのは否めない。
どうせなら深く読めるよう「後期クイーン的問題」について念頭に置いて読むのがいいと思う。

本音を言ってしまえばこの小説はここまで非難されるものではないと思っている。トリックが非現実的だとか、犯人当てのトリックありきで書かれただけだとか、色々言われているがよく考えて欲しいのはそんなことくらい作者が解らないはずがないだろうということだ。
そしてその先にある真意、この小説の意図をしっかり読めば決して前述の非難点が「わざと」書かれているものだと理解できるはずなのだ。そうすれば少なくとも安易に批判的になる人は減って、批判するにしてももっと高尚な評価がされるんじゃないだろうか。

個人的には、この小説は傑作だと思っている。
探偵小説に対する非常に重要な問題提起が成されているある意味正当すぎるくらいの「本格」だと思う。
日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞のダブル受賞はその点が考慮されてのことだろうし、ミステリ読みじゃない人が批判するのはまだしも、ミステリ読みがかなり多く真意に辿り着いていないのが少々哀しい作品かもしれない。

レビュー投稿日
2015年10月12日
読了日
2015年3月12日
本棚登録日
2015年1月19日
3
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