ブラック・フラッグス(上):「イスラム国」台頭の軌跡

  • 白水社 (2017年7月26日発売)
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5

2017年ごろにビル・ゲイツが、「この夏読むのにおすすめの本」としてあげていた本で、ピュリッツァー賞も受賞している一冊。その頃から読みたいと思っていたが、やっと読むことができた。イスラム過激派がなぜ生まれたのか、アメリカはイラクで何をしたのかがわかり、当時テロリストとして有名だったザルカヴィの姿もこの本を通じて色々なことがわかる。

まず、ザルカヴィをテロリストの中で英雄として有名にしてしまったのはアメリカが原因なのだ。当時のブッシュ政権は、9.11の後、イラク政権ととイスラム教過激派とのつながりを疑っており、実際には全く繋がりが無かったのにも関わらず、当時のフセイン政権が危険とみて戦争を仕掛けてしまった。
その時に、過激派の中のリーダーとして、脅威でも無かったザルカヴィを、国務長官自らが真偽が曖昧な状態に関わらず名指しで危険人物として世界に向けて発言をしてしまったのだ。

結果として世界的に有名となった彼は、アメリカに戦争を仕掛けられ、実権を奪われたスンニ派の権力者たちとのコネを獲得し、逆にイラク情勢を不安定化させるテロを次々に仕掛けていく。

彼が狙ったのは、アメリカを孤立させ、スンニ派とシーア派を対立させて、真のイスラム国家にするために内乱の聖戦を起こさせることだった。これは、実に見事に実現していく。

逆に当時のブッシュ政権が、いかに都合の良い情報だけを取捨選択して戦争を起こし、現地に混乱を招いたか。他国に口出しをするにも関わらず、イラクをどうしたいかのビジョンはなく、権力者から力を奪った結果、秩序を保つための組織を壊滅させ、国を不安定にしてしまっただけなのである。

何のための戦争だったのか?まさに、アメリカの失態が非常によくわかる内容だった。

また、一方でザルカヴィの人間性も非常によくわかる内容でもある。彼は自分が英雄であるという大きな自尊心と、イスラムの教えに対して背いてきた過去に対する激しい罪悪感の二つを持っており、結果的にまさに「命をかける」ことを恐れない、徹底したイスラム原理主義者として周囲に一目を置かれる存在になっていった。
元々はザルカの街でゴロツキであり、頭も良くなかった彼が、世界的にネットワークを作り、数々のテロを仕掛け、様々な国を巻き込んだ宗教戦争を起こしていったのだが、どうしてそこまで適切な戦略が書けるようになったのか?そこだけは解せないが、取材をベースにした事実の物語であり、まさに手に汗を握りながら読める一冊。
戦争は、本当に誰が悪いとは言えないものだと感じる。

とはいえまだ上巻、下巻も楽しみ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年5月9日
読了日 : 2020年5月9日
本棚登録日 : 2020年4月10日

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