中学生の頃に知った鳥飼久美子氏は、当時は珍しい同時通訳の花形として大活躍しており、私にとってはもはやアイドルを通り越して憧れの存在だった。真剣に英語を学ぶきっかけを与えてくれた人である。
国際政治の舞台ではこんなにも通訳が重要なウエイトを占めているのかと再認識させられた。通訳は内容に立ち入ってはならず、万一それによって国と国との交渉や関係が損なわれたら大変なこと。政治家や官僚の努力も無駄になるというものだ。そんな具体的事例を示しながらの解説は臨場感に溢れ、まるでその場に鳥飼さんと一緒に居るような気分になった。
歴史を変える程ではないが、私も誤訳にはとても苦い思い出がある。アメリカ某港との貿易協定を締結する際の締結書の草案を誤訳してしまったのだ。本来プロに依頼すべき翻訳だが、たまたまその日は休日だったので、上司は急遽私にやらせた。早く概略を掴みたかったのだろう。翌日プロに発注すれば良いものを、彼はそのまましばらく利用した。そして後にプロから、ニュアンスの違いなどではなく、間違いがあると指摘された。当然その後に正しく修正されたが、今でも穴があったら入りたい程恥ずかしい思い出だ。
本書の中で一つ残念に思うことは、引用された一連の新聞報道がほとんど朝日新聞からで、他紙の情報がないことだ。本書の性格上政治の舞台裏の話が多いが、ほとんど朝日新聞を介しているためかなり偏っているように見える。全国紙の中でも○大紙とかいって、朝日が日本の言論を代表しているかのように考えるのは、もはや終わりにしてもらいたい。
- 感想投稿日 : 2015年6月2日
- 読了日 : 2015年6月2日
- 本棚登録日 : 2015年3月9日
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