透きとおった悪

  • 紀伊國屋書店 (1991年2月1日発売)
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本棚登録 : 73
感想 : 7
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この本で読書会をしたいという友人がいたので手にとった。22章のうち読むべきは15章以降の「ラディカルな他者」だろう。オプティミスティックとは言わないまでも、ペシミスティックではないボードリヤールがそこには在る。ボードリヤールの美なるもの(があるとするなら)もそこに顕れているように思う。
「価値は、いかなる準拠枠とも無関係に、純粋な隣接性によって、あらゆる方向に、そしてあらゆるすきまから拡散してゆく。このフラクタルな段階に到達すると、 自然的であれ一般的であれ、いかなる等価物ももはや存在せず、したがって本来の意味での価値法則も存在しない。」
とボードリヤールは言う。(消費社会の神話と構造で示した)「記号の消費段階」から「フラクタル的な価値の消費段階」へと移行しつつある。そのような社会においては、何もかもが超越性を示す。(例えば、あらゆるところに政治が入り込むようになり純粋に政治的なもの名指しできなくなっているということ。)価値の拡散であり、同質化。肯定性が覆い、否定性が放逐された社会。だが、否定性は完全には排除をすることはできず、ウイルス的形態を伴って出現する。それこそラディカルな他者である。それはフーリガンであったり、(西洋人にとっての)日本人、未開人であり、エイズであったりする。それは現代社会を脅かす悪であると同時に同質化を食い止める希望でもある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 思想
感想投稿日 : 2012年7月2日
読了日 : 2012年6月3日
本棚登録日 : 2012年6月3日

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