薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・風刺短篇集 (光文社古典新訳文庫 Aモ 3-1)
- 光文社 (2015年5月12日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334753108
感想・レビュー・書評
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どれも面白かった。ふざけてる感じの作風なんだが、読み終わるとゾッとする。当時の政治的軋轢により、自由な表現ができなかった苦肉の環境がこのように素晴らしいおどけ狂気な作品を誕生させることになったとは。明らかに変なのに、これが流行とか言われると、どうしても手に入れずにはおられなくなる女。舗装された道を歩けばいいのに、そんな自然に逆らった物など!と山道を歩いて遭難するような意固地な男など。明らかにおかしいのに、いとも簡単にその波に呑まれて流されてゆく人間の愚かさに、現代においても色あせずパンチをくらわしてくる。
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訳者の関口英子さんが好きなので借りてみる。作風的にはあまりあわなかったみたいです……。
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2021年7月期展示本です。
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「こんな小説を書く人だったのか」と驚いた。ずいぶん前に読んだ「無関心な人々」「倦怠」以来のモラヴィアなのでどんな小説を書く人だったか確信はないが、リアリズムのイメージではあったので。
現代に通じる刺激的なブラックユーモアと風刺、鮮烈な描写に満ちている。個性的で美しい。凄く好み。全54作のうちの抜粋ということなので、他をもっと読みたい。 -
おそろしい比喩と暗喩に満ちた短編たち。
国家の敵でボタンを作ったり、薔薇を好むはずがキャベツを好んで嫌悪されたり…
解決しようもない問題に満ちたこの世界に生きていることを突きつけられる気がする。
蛸のように夢でも希望を信じて生きているかしら。 -
皮肉めいたものの見方はしているけれども、刺々しさは控え目にしている気がする。結婚出来ない空想家の日常「怠け者の夢」、欲に目が眩むと大事なタイミングを見逃す「パパーロ」、取り敢えず逃げて下さい「清麗閣」、『夢幻諸島から』を思い出した「夢に生きる島」、評論家の懺悔「いまわのきわ」、『きつねとぶどう』な「ショーウィンドウのなかの幸せ」、大爆笑した蛸の死生観「蛸の言い分」、さて、今年の春の流行は?「春物ラインナップ」などイタリア文学はまだまだ金脈が沢山ありそう…とここまで来て最後に強烈な「記念碑」で掉尾を飾る。ある男の記念碑が立てられるまでの経緯に鳥肌が立った。解説にある退廃した中産階級を書いたものよりも、「蛸の言い分」のような喜劇タッチの話をもっと読んでみたい。
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映画化された作品はいくつか観たことがあるけれど、実は小説は読んだことがなかったモラヴィア。こちらはシュルレアリスム・風刺短篇集ということですが、全体としてはシュールなものより、風刺というか皮肉というか、ブラックユーモアのきつい寓話という印象のほうが強かったかも。
いちばん好きなのは、モグラと王女の間に生まれたクルウーウルルルの夢に支配されている「夢に生きる島」。単純にワニが好きなので、ワニをファッションのようにまとう「ワニ」もなんか好き。あと、結局最後までどういう生き物だかわからない「パパーロ」も。表題作の「薔薇とハナムグリ」は妙に官能的でした。性的マイノリティの娘を受け入れられない母親、ゆえにその母親にカミングアウトできない娘、みたいな現代的なところもあって。「疫病」は加齢臭に置き換えて読んでしまった(笑)
※収録作品
「部屋に生えた木」「怠け者の夢」「薔薇とハナムグリ」「パパーロ」「清麗閣」「夢に生きる島」「ワニ」「疫病」「いまわのきわ」「ショーウィンドウのなかの幸せ」「二つの宝」「蛸の言い分」「春物ラインナップ」「月の“特派員”による初の地球からのリポート」「記念碑」 -
『無関心な人びと』で知られるモラヴィアの短篇集。副題に『シュルレアリスム・風刺短篇集』とあるように、シュルレアリスムの手法を用いて、ファシズム時代の社会情勢を批判的に描いている……とは言うものの、社会情勢というよりは、普遍的な人間の性質を描いているように読める。
風刺もさることながら、シュルレアリスムの部分が面白い。『部屋に生えた木』の、突然、室内に生えて立派に成長(!)してしまった樹木、『薔薇とハナムグリ』の、ハナムグリ母子の会話、『清麗閣』で行われた結婚披露宴の顛末、『ワニ』『春物ラインナップ』の謎のファッション……等々、挙げればきりがないほどだが、一番好きなのは『夢に生きる島』と『記念碑』。
映像的な文章で描かれる世界を頭の中で想像してみると、かなり面白い絵面になるのも良かった。
本文庫では、全54編の中から15編が収録された。かなり未収録の短編があるので、第2弾、第3弾が刊行されるのを期待。