「竹田の子守唄」の生い立ちを追ったドキュメント作品。
生い立ちを追うということは、必然的に部落差別問題や放送禁止(実際にはメディア側による自粛)問題にも触れることになる。
ロック好きの方であれば著者の藤田正氏の名前をご存知の方も多いかと思う。
僕もミュージック・マガジンの執筆者の一人として名前は存じ上げていた。
その後、田中勝則著による故中村とうようの伝記の中で、そのとうよう氏との確執や、とうよう氏自死後に藤田氏が寄せたメッセージの内容を読むにつけ、藤田氏に対してはあまり良い印象は持っていなかった。
ただ、本書を読んだことによりその悪印象はかなり薄れ、とうよう氏自死に対するメッセージ(決して追悼の意があるとは思えない)の意味合いも少しだけだけれども理解できたように思う。
それはともかくとして、この「竹田の子守唄」の歩んできた生い立ち、いかにして世に広まり、消えていったか、この唄を取り巻く人々の思い(赤い鳥やいわれなき差別を受けてきた方々、そんな方々を支援する人々)そしてなによりもこの唄の持つ強い存在意義というものを知ることが出来た。
もちろん、差別を受けてこられた方々の苦しみや悲しみ、怒り、虚しさなどを「完全に理解できた」などとは口が裂けても言えないけれど、少なくとも「少しでも理解しよう」と試みることは必要だと思う。
そしてそこから自分に何ができるのかを見極め、ほんの少しでも力になれるように行動する。
気障な言い方かもしれないけれど、そういう個々の力が集まって一つの大きな力になるのだろうな、と思う。
どこまで意識的だったのかはわからないけれど、本書にはあまり難しい言い回しや単語などは使われていない。
漢字にしてもちょっと難しそうなものにはきちんと振り仮名がふってある。
内容からすれば、もっと重々しく、あるいは論文や研究結果、調査結果の報告書のような形式ばった形にも出来たと思う。
それをしなかったのは、少しでも多くの人に本書の内容を知ってほしい、という気持ちがあったのかな、と思う。
そしてそんな気持ちは成功しているんじゃないかな、なんて僭越ながらに思えた。
本書にはCDも付いてくる。
赤い鳥による「竹田の子守唄」と部落解放同盟改進支部女性部のコーラスによる「竹田の子守唄(元歌)」「竹田こいこ節」が収録されている。
本書を読めば、それらの唄の生い立ち、歌われている詩の内容、歌っている方々の立場や心情を知ることが出来る。
三曲とも、心にどっしりと響いてくる。
それになによりも名曲だと思う。
- 感想投稿日 : 2018年1月19日
- 読了日 : 2022年11月24日
- 本棚登録日 : 2018年1月19日
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