名探偵の掟

著者 :
  • 講談社 (1996年2月1日発売)
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本棚登録 : 619
感想 : 68
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■この本を、電車の中や病院の待ちあいで読まない方がいい。思わず笑い出してしまうから。

■髪がぼさぼさな名探偵とちょっとドジな警部。彼らは今日も事件に巻きこまれる。しかも密室、見立て、冬の山荘、時刻表トリック――本格コテコテの殺人事件に。探偵はこっぱずかしい決まり文句を繰り返すのにウンザリしている。警部も毎度毎度のバカなふりには嫌気がさしていて・・・。そう、彼らは探偵小説の中で役割を演じる演者であり、いくらバカバカしくっても守っていかなければならないのだ、この設定を。

■お約束の世界の住人たちは、自分の役割を忠実にこなさなければばならない。そのことは十分にわかっている、わかってはいるけど割り切れない何かを同時に抱えている。そこに可笑しみと一抹の悲哀が生まれる。
……『トイ・ストーリー』――お約束のおもちゃの世界では、人形たちは人前では決して動いてはいけない。子供の乱暴な扱いに耐えなければならない。飽きられたら捨てられるだけ。そこに、自分が本物の宇宙飛行士と信じて疑わない、勘違い野郎バズ・ライトイヤーが仲間入りしてきて・・・
……『シュガーラッシュ』――ラルフはゲームの世界でひたすら建物を破壊して主人公を困らせる悪役、それがお約束だ。でも本当は気の優しいナイスガイ。彼はたまにはヒーローの真似事もしたくなって・・・
……「月光猿軍団」(『ダウンタウンのごっつええ感じ』のコント)――舞台でコミカルな芸を披露してきたお猿さんたち。だがそれはあくまでお約束ごと。楽屋に着くやいなや、猿たちは猿回しの人間へ容赦のないダメ出し、説教を始める。
……われわれの人生――学校、就職、結婚、出産、勤労・・・やがて体の自由がきかなくなり、異性どころかあらゆる他人に興味を失い、重篤な病をわずらって初めて知ることになる。われわれはお約束の世界で役割を演じてきただけなのだと。ただし、死の宣告を待つ病院の待ちあいでそんなことは思い出さない方がいい。思わず笑い出してしまうから・・・。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー・サスペンス
感想投稿日 : 2019年5月21日
読了日 : 2019年5月21日
本棚登録日 : 2019年5月21日

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