■文庫版だと全五巻、総ページ数2,500ページにも及ぶ大作。400字詰め原稿用紙だと3,800枚くらいか。
■当然その分、いろんなことが書かれている。ストーリー然り、人物描写然り、会話文然り。
■そんな中で、この作者の特徴でもあるのだが、アメリカのサブカルチャーに関する言及がひっきりなしに出てくる。商品名だとか、流行歌だとか、映画やテレビや本の内容だとかが。
■作者の意図は、そうすることによってフィクションの世界に現実味を持たせること。しかしハリウッド映画好きでロック好きのぼくが読んでても、聞いたこともないような言葉がわんさか出てくる。結果、いちいち「それ何のこと?」「これどういうニュアンス?」てなぐあいになって物語に没入できなくなる。つまりぼくにとっては作者の意図なんてまったくの逆効果で、そんなサブカルのアイテムズは邪魔でしかないのだ。
■ひっきりなしに出てくるといえば他に聖書のこと。フリーゾーンの人間たちは、自らの行いを正当化し未来に対して希望を持とうとするために、聖書の言葉を引用しては自分たちを鼓舞しようとする。
また”闇の男”に対比される善の象徴マザー・アビゲイルの設定は、敬虔なバプテスト派クリスチャンであると明記されている。
物語のテーマはアメリカを舞台にした善と悪との対決。だから作者はそれに説得力を持たせるにキリスト教を持ちこんだのだろう、それはわかる。だがこれも、宗教など縁のないぼくからしたら全くもって逆効果、興ざめで鼻白んじゃうのだ。
■………だって99パーセントの人類が死に絶えても、生き残りにムスリムはひとりもいないんかいって! その頃太平洋をはさんだ日本では、八百万の神と閻魔様が対決してるんかいって! オオカミやイタチは悪魔の手先、イヌは人間の友だち、ウサギやシカは中立なんかいって!
■まぁ、善と悪、こんな単純な二元論を堂々とテーマにして、それでこんだけの分量書ききったのは、ある意味すごいとは思うけど。
- 感想投稿日 : 2022年8月26日
- 読了日 : 2022年8月16日
- 本棚登録日 : 2022年8月16日
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