■松本清張「二冊の同じ本」
今は亡き友人から譲ってもらった一冊の学術書。そこには懐かしい友の書き込みが施されている。しかしその書きこみはなぜか、数ページ続くかと思えば数十ページ飛ぶ、そしてまた始まるという変な具合だった。ある日私は古本即売会でそれと同じ学術書を手に入れた。するとなんとそこにはあの友人と同じ筆跡の書き込みが。しかも前の学術書で書き込みがなかったところだけを選んだかのように、つまり二冊併せて一冊分完全に網羅できるように書き込みがなされていた。これは一体どういういきさつでこうなったのか? 好奇心に駆られてその背景を探る私はついに恐るべき謀略へと辿りつく………。
――――天才の手になる一掌編。ただただ唸るしかない。
■戸坂康二「はんにん」
貸本屋で借りた一冊の探偵小説。その見開きに載せられた登場人物紹介の一覧のひとりに、これ見よがしに手書きで「はんにん」と書き込みがなされている。しかし読んでみたらわかるのだが、結局その登場人物は犯人ではないのだ。……それにしても誰が何のためにこんなイタズラを?
――――日常の謎。
■石坂英太郎「献本」
作家が親愛の情を込め、自筆署名して贈った献本。しかしそれは貰い手によってすげなく古本屋へと売り飛ばされる。そのとき殺意が目を覚まし暴走を始める……。
――――物語の途中で主人公がクルっと交代する。それが大変面白い。
■早見裕司「終夜図書館」
沖縄の人っ子一人いない草原のド真ん中にポツンと出現した公衆トイレみたいな不審な建造物、それが”終夜図書館”。スランプに苦しむジュニア小説家の私は、友人の作家の勧めで”ジュニア小説が全部揃っている”というその図書館を訪れるのだが……。
――――恐るべき傑作! 魂が揺さぶられる!
■野呂邦暢「若い砂漠」
主人公は父の家業を継いだ古本屋の若い店主。
その古本屋にしばしば現れるのが、一冊の詩集を手には取るが結局買わずに名残り惜しそうに店を出る初老の労働者。
主人公の店主がその詩集を読んで、そしてその労働者に思いを寄せて想像するのが、夢叶わず消えていったかつての若い詩人たち。
そこで主人公が思いだしたのが学生時代、才能はあるが生意気だった小説家志望のとある友人。
主人公は大阪への出張がてら、神戸在住のその旧友との再会をこころみる。
――――いつまでも輝きを失わない古い本に囲まれて主人公は、夢破れただ老いさらばえるだけの男たちの人生を静かに見守る。
■紀田順一郎「展覧会の客」
時は昭和40~50年頃。ところは東京神保町。
同業者たちに総スカンを食らおうとも、また犯罪に手を染めることがあろうとも、男は今日もひた走る。稀覯本をその手中に納めるために。
――――稀覯本収集に沸いた当時の熱気が伝わってくる(今では到底考えられない!)。
- 感想投稿日 : 2021年6月21日
- 読了日 : 2021年6月21日
- 本棚登録日 : 2021年6月21日
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