岩波文庫的 月の満ち欠け

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本棚登録 : 574
レビュー : 47
著者 :
yamaitsuさん  >さ行   読み終わった 

小山内堅(つよし)は、ごく普通のサラリーマン、青森県八戸で生まれ育ち東京の大学で同じ高校出身の後輩である梢と恋に落ち、やがて結婚、娘の瑠璃が生まれる。しかし瑠璃が7歳のときに高熱を発し、その後奇妙な言動をするようになる。古い歌謡曲を口ずさみ、テディベアにアキラくんと名付け、一人で高田馬場のレンタルビデオ屋へ家出しようとしたりする。妻が思い悩むのを小山内は軽く流そうとしていたが・・・。

それなりの年だし標準よりは多い量の小説を読んできたつもりだけれど、いまだに「なぜか1冊も読まずにきた有名作家」が結構いたりする。佐藤正午も実はその一人。『永遠の1/2』映画化されたことがうっすら記憶にある程度。今回も、直木賞受賞云々はあまり自分の興味対象ではなかったのだけれど、輪廻転生ものだということを知って急に興味が沸き、ようやく手に取りました。最近ツイッターでたまたま「うちの子が前世の記憶を語り出して~」という話を目にして(実はうちも、というコメントが沢山)やっぱそういうのあるんだなと思っていたところで。

とりあえず面白くてぐいぐい一気読みしてしまった。時系列をちょっといじるだけで、ラストがいい感じに終わる当たり、すごく上手いなと感心。あと生まれ変わっても恋に落ちたい二人にとって重要な場所になるのが高田馬場で、ふたりのデートの場所が今も現存の名画座・早稲田松竹(私も何年もしょっちゅう行っている)だったので、個人的にイメージ喚起しやすく、リアリティが増しました。

何度も転生するヒロイン「瑠璃」を主軸に、物語の枠組みとしては、まずいちばん外側に四回目の転生である緑坂るりという少女がいて、その内側に大きく分けて3つのパート=転生前の3人の瑠璃に関わる3人の男(小山内、三角哲彦、正木竜之介)と、彼らがそれぞれ知っている「瑠璃」との物語が挿入されている形。

瑠璃は好きな男と結ばれたくて自分の意思で何度も転生を繰り返すのだけど、転生するのは瑠璃ばかりで男のほうはそのまま生きながらえ年齢を重ねている。それでも恋人と再会したい瑠璃の執念は、もはやロマンチックを通り越してちょっと怖いとおばちゃんは思ってしまうのだけど、お相手の男性が優しいのでラストは救われた。

ただ個人的には、瑠璃をあまり好きにはなれなくて、ちょっとしんどいなと思うときもあり。特に気の毒なのは小山内。彼は「2番目の瑠璃」の「父親」であり、初代の瑠璃に恋愛感情を持つ三角や正木とは事情が違う。ある日突然可愛い7歳の娘が、前世の記憶と取り戻して別人になって、好きな男に会うため親を捨てて家出を繰り返すとか、自分が親だったら悲しすぎる。これは小山内に限らず、歴代の転生瑠璃の両親みな気の毒すぎると思う。

前世の瑠璃ではない、生まれ変わったあとのちゃんと両親が愛して育てた7歳の女の子はどこにいってしまうのだろう? 二重人格的な感じなのか、それとも完全にすり替わって、最初の瑠璃の記憶と精神が7歳の肉体に宿っているだけになってしまうのか。どちらにしても4回目の瑠璃が2回目の父だった小山内と再会してからの生意気な口の利きようが、あまりにも酷くて、いくら中身は元27歳だとしても、だからこそもっと礼儀正しい口はきけないものかと憤りすら感じた。年齢以前に言動が場末の水商売の女性みたいだ。

そういうところも含めて、瑠璃があまり頭が良くなさそうなことに地味にイラっとしてしまうのが残念だった。見た目年齢小学校低学年の女の子が一人で行動すればどういう結果になるかは中身大人ならわかるはず。相手の男性はロリコンの汚名を着せられ誘拐犯にされてしまう。正木竜之介は最低な男で大嫌いだったけど、私が瑠璃の立場ならこの男には絶対近づかない。でも瑠璃は安易に利用しようとする(結果悲惨)そして何度転生しても、また同じ失敗を繰り返す。結果、会いたい相手との年齢差はどんどん開いていく。

唯一、小山内に対して瑠璃の言った(した)ことで良かったのは、映画『四月物語』のエピソード。これはぐっときた。少しネタバレだけれど、瑠璃以外にもう一人、自分の意思で転生している人間の存在を瑠璃はほのめかすわけだけど、このもう一人のほうは、瑠璃と違ってとても頭が良く、瑠璃もこういうふうに立ち回れば良いのにと思った。

あと、ひとつホラーな余韻が残ったのは、ある人物がすでに死去したことを強調されていたけれど、もしこいつも転生してたらほんと最悪だなという点でしょうか。強い恋愛感情を持つものが自分の意思で転生することが可能なら、それが両想いの場合は良いけど、片思い、一方的な執着でそれをされたほうはたまったもんじゃないだろうなあ。

レビュー投稿日
2019年11月4日
読了日
2019年11月2日
本棚登録日
2019年11月1日
3
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