ざっくりわかりやすく言うとドイツ版「吾輩は猫である」ですが、漱石よりもホフマンが先。猫自身が書いた自叙伝という体裁をとっていますが(ムルくんは自分でペンとインクを使って文字を書けるんです!)それだけでなく、ムルが執筆しながら吸い取り紙として勝手に使った別の著作(楽師クライスラーの伝記)が紛れ込んでいて、猫の自伝と楽師の伝記が交互に進行するという構成。
このクライスラーとムルは全くの他人というわけではなく、ムルの飼い主アブラハム先生(職業はいまいち謎だけど奇術師?)が、弟子のように可愛がっているのがクライスラーなので、両者には一応面識があり、ストーリーも微妙に重複しつつ進んでいきます。
ムルくんはとってもお利口ですが、読書家で勉強家ですから少々理屈っぽく、詩人でもあるので表現が大仰で難解、自尊心も強いので、もし人間だったとしたら少々おつきあいし難いタイプ(苦笑)。親友は犬のポントーくんですが、こちらはさすが犬族だけあって処世術に長けており(飛躍しますが、さながら「失恋ショコラティエ」のサエコさんもかくや、という自分の可愛さを熟知したうえでの人間への媚にポリシーを持っていて素晴らしい)ムルくんより一枚上手。白い美猫のミースミースと恋に落ちたり結婚したり浮気されて離婚したり、ムルくんにはさまざまな試練が。
一方楽師のクライスラーのほうは、なんだか人間関係が込み入っていてややこしい。といっても堅苦しい話ではなく(どちらかというとムルの語りのほうが堅苦しい)、ムルの飼い主でありクライスラーの師匠筋であるアブラハム先生のキャラなんかは、いかにもホフマンらしい、「砂男」のコッペリウスにも通じる胡散臭さ。
翻訳が古い(初版は1935年)のでちょっと読みづらい部分もあるんですが、下巻でどうなるのか続きが楽しみ。
- 感想投稿日 : 2014年11月10日
- 読了日 : 2014年11月9日
- 本棚登録日 : 2014年10月30日
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