十二支考 上 (岩波文庫 青 139-1)

著者 :
  • 岩波書店 (1994年1月17日発売)
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再読。下巻を先に再読したのだけれど、下巻あとがきによると、1914年(大正3年)の寅年から雑誌『太陽』で連載が開始されて、毎年その年の干支について書かれていたのに、1923年(大正12年)亥年に関東大震災があったので猪までで中断、その後書きかけの鼠については後日まとめられたが、のこりの一つ「丑(牛)」については書かれることがなかったようです。なので十二支考なのに実は十一支しかない。

そんなわけで上巻は虎、兎、竜、蛇、馬の五支分。虎はもともと日本にはいないから、昔話や伝説にも虎ほぼ登場せず、ゆえに中国やインドのエピソード中心。相変わらず熊楠先生の話は脱線しがちで、いつのまにか得意の藻の話とかになってるし(笑)

竜だけはタイトルが「田原藤太竜宮入りの話」となっているのだけど、これはつまり竜だけは十二支の中で架空の動物だからだろうか。比較的身近な動物の多い十二支の中に、突然「竜」が入ってるのってふと思うとなんでだろうね。蛇と共通の話題も多いし、元ネタというかもともと竜に間違えられた生き物は何だったのか、西洋でも東洋でも同時多発的に「竜」という動物が存在すると思われたのも不思議だし、これは興味が尽きない。

馬についてはとくに脱線が多く、どこでそうなったのか気づくとシモの毛の話になっており、熊楠先生いわく、

「婦女不毛の事など長々書き立つるを変に思う人も多かろうが、南洋の諸島に婦女秘処の毛を抜き去り三角形を黥するとあり。諸方の回教徒は皆毛を抜く。その由来すこぶる古く衛生上の効果著しいところもあるらしいから、日本人も海外に発展するに随いこの風を採るべき場合もあろう」

というわけで、つまりこれは「国家に貢献しよう」という志の表明であり、断じて単なる下ネタではないと主張(苦笑)しかし実際に100年後の日本でブラジリアンワックスなるものが流行したことを思えば、熊楠先生の慧眼、達見は敬服に値するかも(笑)

アプレイウスの『金驢篇』(※黄金の驢馬)と日本の小栗判官に共通点が多いというのも気になるのでいつか比較してみたい。あと動物とは全く関係ないのだけれど「拙妻は左手のみ蝮指だから、亭主勝りの左利じゃなかろうかと案じたが、実は一滴も戴けませんから安心しやした。」等という文章から、酒飲み、酒好きのことを「左利き」と昔は表現したのだろうなと思われ、今も真偽が問われる新選組の斉藤一の左利き説、あれ言った篠原泰之進は実際の利き腕の話ではなく酒飲みだったというつもりだったのではなかろうかと考えたりする。

※収録
虎に関する史話と伝説民俗/兔に関する民俗と伝説/田原藤太竜宮入りの話/蛇に関する民俗と伝説/馬に関する民俗と伝説

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  民俗学・伝奇
感想投稿日 : 2018年3月7日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年10月4日

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