燃えよ剣(下) (新潮文庫)

4.05
  • (2046)
  • (1104)
  • (1659)
  • (50)
  • (8)
本棚登録 : 10305
レビュー : 839
著者 :
yamaitsuさん  ○司馬遼太郎   読み終わった 

再読。下巻でようやくオリキャラ七里研之助とはケリがつき、歴史上の急展開。大政奉還、高台寺党残党による近藤さん狙撃、そして鳥羽伏見の開戦と続く。油小路の変もわりとあっさりめ、しかし司馬さんなぜか鳥羽伏見の戦いにかなりの頁数を費やしている。通常、新選組の小説だと、わりと簡略にされがちな部分を、ここぞとばかりに詳細に。いよいよここからが、喧嘩師・土方歳三の本領発揮ということか。

鳥羽伏見の敗走、甲陽鎮撫隊の失敗、永倉・原田の離脱、そして運命の流山へ。近藤さんが引き留める土方さんに「自由にさせてくれ」と言うくだりが辛い。「ここで別れよう」「別れねえ、連れていく」とかほとんど男女の別れ話のようだ。しかし近藤勇のその後については司馬さんは詳しく書かない。土方歳三はひとりでも戦い続ける。新選組という枠が外れてからのほうが、たぶん土方歳三という男の真骨頂だと司馬さんは思っているんだろう。終盤の白眉は宮古湾の海戦。

お雪さんとの別れは切なかった。開戦前夜に隊士たちがみんな各々の女のところへ出かけたのに留守番土方さんが病床の沖田さんの前で「歔欷」する場面もとても好きだ。沖田さんの前なら土方さんだって泣くし、そもそも実はポエマーだし。最後の突撃の前夜、近藤さんや沖田さんの亡霊(夢オチ)が現れる場面もとても美しい。司馬さんの幕末もの小説はほとんど読んだつもりだけれど、こういう一種幻想的なまでにセンチメンタルな場面があるのはこの作品だけかも。

あと斉藤一おたくとして外せない名場面はここ↓

ある日、
「隊長、私は雅号をつけた。きょうからはその号で呼んでいただけないか」
といった。なんだ、ときくと、
「諾斉です」
笑っている。若いくせに隠居のような名である。
歳三も噴きだして理由をきくと、
「なんでもあんたのいうことをきく。だから諾斉」
といった。

今も涙なしには読めないシーンだし、あまりにも良い場面だからこれを初めて読んだ高校生の私はてっきり斉藤一は五稜郭まで土方さんと一緒に行ったものだと思っていた。がしかし、斉藤一についていろいろ調べていくうちに、そもそも彼は会津に残り後半生を会津藩士として生きたので五稜郭には行っていないし、斉藤一諾斉という斉藤一と似た名前の全く別隊士のエピソードを、うまく利用した創作だと今では知っている。知っていてもこの場面の魅力はやっぱり衰えない。

最近たまたま、新選組関連の史料を再読していたところだったので、小島鹿之助『新選組余話』と佐藤彦五郎『聞きがき新選組』の土方さんの郷里の人たちの証言をベースにいかに司馬さんが土方像を練り上げていったかに想いを馳せた。出典がわかっているので司馬さんが「肉付け」した部分もわかりやすい。市村鉄之助が「総司に似ている」なんてのは完全に司馬さんの創作で、こういうキャラづけやちょっとしたエピソードがうまいんだよなあとしみじみ感心した。色褪せない名作。

レビュー投稿日
2019年9月30日
読了日
-
本棚登録日
2012年9月21日
4
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『燃えよ剣(下) (新潮文庫)』のレビューをもっとみる

『燃えよ剣(下) (新潮文庫)』のレビューへのコメント

まだコメントはありません。

コメントをする場合は、ログインしてください。

『燃えよ剣(下) (新潮文庫)』にyamaitsuさんがつけたタグ

いいね!してくれた人

ツイートする