穴 (新潮文庫)

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本棚登録 : 267
レビュー : 42
著者 :
yamaitsuさん  >あ行   読み終わった 

既婚、子なし、非正規社員で働いている女性が、夫の実家の隣に引っ越し一時的に専業主婦になるが、謎の黒い獣を追いかけて穴に落ちてから、奇妙な事象が身辺で起こり始め・・・。

最終的にはホラーのような余韻を残すのだけど、日常のリアリティと不穏な出来事のバランスが絶妙でなんともジワジワ怖い。非正規で働く女性の不安や不満、鬱屈、専業主婦になったらなったで感じる罪悪感、サバサバしてて良い人っぽい姑との実は水面下の攻防、四六時中スマホ片手にSNS中毒な夫などはとても現実的で現代的だし、働く女性、家庭を持つ女性が普通に「あるある~」と共感できる要素がとても自然に盛り込まれているにも関わらず、同時に、不条理なことが当たり前のように起こり、そうすると普通に親切なはずの近所のご婦人なども怪しくて不気味に思えてきてしまう。虫や動物の描写の詳細さもこの不穏さに一役かっているかも。

兎を追いかけて穴に落ちたアリスは最終的には元の世界に戻ってくるけれど、この小説の主人公は、黒い獣を追いかけて変な穴に落っこちてもぼんやりしたまま、意外にも居心地の良さまで感じているかのよう。そして慣れなかった田舎暮らしに、最終的にはすっぽり馴染んでしまい、同時に不穏だった獣や義兄や子供たちの姿は見えなくなる。表面的な整合性を求めるなら、主人公の不安定な心理の象徴として他の人には見えない獣や穴や義兄や子供たちが見えていて、それが解消された途端にそれらは消えた、ということになるのだろうけど、それだけで片づけてしまうのは勿体ない。なんともいえない読後感があってとても好きでした。

併録の短編「いたちなく」「ゆきの宿」は連作になっていて、表面的なストーリーは二組の夫婦の普通の交流なのだけど、とにかく「いたちなく」が怖くて(やはり動物の描写が詳細なのが不穏さを煽ってくる)おかげで何も問題は起こっていない「ゆきの宿」までホラーだったような気がしてきてしまう。そんなことはどこにも書いていないのに「その赤ん坊の顔はいたちにそっくりでした」というオチを勝手に想像してギャッと叫んでしまいそうになった。怖いけど面白かった。解説が笙野頼子なのも納得。

レビュー投稿日
2016年7月29日
読了日
2016年7月28日
本棚登録日
2016年7月28日
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