沼地のある森を抜けて (新潮文庫)

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本棚登録 : 1944
レビュー : 231
著者 :
yamaitsuさん  >な行   読み終わった 

亡くなった叔母のマンションと母方先祖から代々伝わる家宝の「ぬか床」を引き継いだ久美。両親は彼女が学生の頃に不審な事故死を遂げており、彼女自身の幼少時の記憶も曖昧なところがある。やがてぬか床に発生した卵から謎の少年が現れ・・・。

序盤は単純に「不思議なぬか床」にまつわるファンタジーっぽい展開だったのだけど、どんどん壮大な話になっていってびっくり。自分探しなどという軽いノリではなく、生命とは!?みたいなところまでいってしまうのだからこれは大変大きな風呂敷。酵母や菌類・藻類や遺伝子などの話からジェンダー問題まで、有性生殖、自己と他の世界との境界など、全部ひっくるめて根源的なことを問いかける内容。島にある沼でだけ独自の進化をとげた「沼の人」という科学と民俗学の融合みたいな存在を設定したのは面白いと思った。

専門的でディープな題材を柔らかめにまとめてあって凄いな、と感心する反面、ちょっとエピソードを多方面から盛りすぎかなと思う面もあり、個人的には素直に大感動とはいかなかった。自分は恋愛や結婚には向いていないししたいとも思っていないみたいな感じでクールめの主人公・久美ちゃんと、男性性を嫌悪するあまり、ゲイでも女装化でも性同一性障害でもないのに女性的にふるまっている男性・風野さんというどちらも独特の視点をもった男女キャラを配置しておきながら、着地点が結局男も女も生まれたからには子種残してなんぼですよね遺伝子を未来に引き継ぐのが生物の本能なのでセックスして子供産みましょうそれが使命です!みたいになってしまったのもちょっと残念。

ところどころで挿入される「僕たち」のいる「シマ」のエピソードは太古の微生物の進化の過程のようでもあるし、アリやミツバチの活動のようでもあるし、藻類と潮の満ち引きの話のようでもあるし、沼の内部で起こっていたことのようでもあるけれど、結局つまり精子である「僕たち」が卵子である「アザラシの娘」と出会って結合すると「シ」にます、なぜなら合体して別のものになるから、それはシ=死であり、シ=子でもある、というように私は解釈しました。つまり有性生殖万歳と。

ここまでくると、序盤のフリオや光彦はなんだったのかなあと思う。カッサンドラとかかなりいい感じに怖かったのに。風野さんのキャラクターはキライじゃなかったけれど、彼の語るジェンダー論みたいなのが主張が強すぎて、そこだけ「作者の言いたいことをキャラが代弁させられてます」みたいな印象を受けました。その内容の可否は別として、物語の中に突然「思想」をねじこまれるのがとても苦手で、もちろん作品とはすべて作者からのメッセージですと言われればそうなのだろうけど、物語から浮き上がってしまうくらい強い主張が突然挿入されることには違和感を覚えます。

レビュー投稿日
2017年11月30日
読了日
2017年11月29日
本棚登録日
2017年11月20日
4
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