ネグレクト寸前の母親に育てられ、父親は愛人宅に入りびたりの家庭で、食欲でも性欲でもなく「家族欲」に飢えている主人公の恵奈は「カゾクヨナニー」という独自の精神的自慰方法を編み出す。家族の愛情いっぱい育てられたかのように「脳を騙す」だけでいいのだという彼女の理論は非常に合理的だし、たとえば普通の子供にとってもライナスの毛布的なアイテムはあるし、疑似家族の役割分担をして遊ぶ「おままごと」も、一種のカゾクヨナニーなのかもしれないし、実は無意識に誰しもおこなっていることなのかもと思わされる。だから彼女のしていることはそれほど変だと思わないし、彼女が特別異常だとも思わないし、むしろそれを自覚しているだけ頭の良い子だなと感心してしまった。
自分はたまたま母親の足の間にある扉からこの世に生まれ出てきてしまっただけ、だから母親に自分を愛することを強要しない、欲しいものは手に入れるのではなく自分で作り出せばいいと割り切る恵奈はとても逞しい。同じ家庭に育っても誰かが愛情を与えてくれるのを待つだけの受け身な弟に私もイライラしてしまった。恵奈の家族ほど荒んではいないし、渚さんほど徹底してはいないけれど、私もとにかく早く家を出たいと思い、二十歳でそれを実行した程度には家族というシステムに希望を見出していなかったから、途中まではとても共感して読んだ。
終盤、大学生の彼氏が突然気持ち悪くなり(こういうタイプ、ストーカー化しそうで苦手だなあ)、カゾクヨナニーしない家族などないと気づいてしまった恵奈が壊れてからは、正直ちょっと急展開すぎてついていけなかった。なぜか三島の「美しい星」を思い出した。
- 感想投稿日 : 2017年2月24日
- 読了日 : 2017年2月23日
- 本棚登録日 : 2017年2月22日
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