SOSの猿 (中公文庫 い 117-1)

著者 :
  • 中央公論新社 (2012年11月22日発売)
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副業エクソシスト、困った人を放っておけない二郎君が語る「私の話」と、株の誤操作について調べる五十嵐さんが主人公の「猿の話」、一見全く関係ないそれぞれのストーリ-がどこかしらの時点で融合するというのは珍しい構成ではありませんが、交互に語られることで同時進行だと思わされていたそれぞれのストーリーが実は微妙に時間軸をずらしてあって、いわゆる「叙述トリック」の一種が仕掛けられてるところが構成としてはミソと思われます。

とはいえ別にものすごく目新しい手法というわけではないし(同じ作者ならアヒルと鴨~ほどのどんでん返し感は全くなかった)、勘の良い読者なら、結構早い段階でそのトリックに気づいてしまうと思う。もちろん作者がそのための伏線を張っているからではあるだろうけど、語り手の猿が誰か、結構すぐ予想ついちゃったし。総じて、構成的には、伊坂幸太郎のわりに物足りない・・・って印象。

あえてわかりやすくしてあるのかもしれないけど、最後のほうの、あからさまな漫画への伏線とか、個人的にはちょっと興醒めしちゃったり。まあ最初から、漫画とコラボで始まった企画だそうなので、それは仕方ないのかなあ。小説は小説で独立して読んでも、一応の解決は得られるのだけれど、この小説バージョンのユング的解決と裏腹に、漫画のほうでは眞人君は実際に違う世界と行き来して本当に戦ってる的な展開なのだろうなというのも予想がつくし。

とはいえ、個々の部分はやはり伊坂幸太郎らしい(?)示唆や哲学に満ちていて、はっとするような台詞や、心あたたまるエピソード、共感できるキャラクターなんかはすごく良かったです。特筆すべきは、これまでの伊坂作品ではあまりクローズアップされてこなかった(と思うけど、どうだろ)おばさんキャラ=母世代のキャラクターの魅力が突出してること。二郎君のお母さんも、辺見のおばさんも、雁子さんも、特別な能力は何も持たないけれど、あの年齢特有の達観した図太さとおおらかさがあって、すごく癒されたなあ。とくに二郎君のお母さんはすごい人だと思いました。

あと余談ですが、フロイトが何でもかんでも性的なことに結びつけるのは私も嫌いです(笑)。すごく昔に読んだのでうろ覚えだけど、10歳未満の女の子が見た夢に「伸び縮みする」何かが出てきたときに、即「ペ○スの象徴」とか分析しちゃうくだりがあって、
少なくとも自分がそんな年齢のときは、それが「伸び縮みする」という認識すらなかったわい、ええかげんにせえよおっさん、と思った記憶があります(笑)。やっぱユングのほうがいくらか信用できると思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ○伊坂幸太郎
感想投稿日 : 2012年11月26日
読了日 : 2012年11月26日
本棚登録日 : 2012年11月22日

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