飛ぶ孔雀

著者 :
  • 文藝春秋 (2018年5月10日発売)
3.77
  • (18)
  • (23)
  • (17)
  • (8)
  • (0)
本棚登録 : 448
感想 : 38
4

「飛ぶ孔雀」「不燃性について」の2作収録。基本的には同じ世界(火が燃え難くなった世界)の繋がった話になっており、登場人物もたぶん一部被っている。

どちらかというと「飛ぶ孔雀」のほうが難解で、連作短編風の序盤の細かいピースを、同じパズルの中の一部でありながら全体の中のどこに嵌め込めばいいのかわからず戸惑った。「不燃性について」の最後まで読んで初めて冒頭の「柳小橋界隈」に繋がり、なんとなく世界観を理解できたような気になれた。

書き下ろしの「不燃性について」のほうが筋書きらしきものはわかりやすく「飛ぶ孔雀」のほうで不明だった部分の補足の役目も果たしている。むしろ筋書きらしきものがあることのほうに驚いた。トワダというジャイアン的な登場人物なども、今までの山尾悠子の作品にはいなかったタイプで、和風、昭和の下町風の世界のイメージもあり、何かに似てるとしたら唐十郎的な? もしかして今後の作風は変化するのかも、ターニングポイントになる作品なのかもと思った。

二作通じて、タエ、トエ、スワ、ヒワ、サワ、ミツ、セツ、リツなど似たような名前の人物(すべて女性)ばかり登場するのは一種の分身なのかもしれない。そもそもシブレ山とシビレ山というのが分裂した世界の象徴のようだし、石切り場の事故だの落雷だのを契機に分裂した世界は、しかし完全に分離はしておらず地図上では重なっていて、同じ場所にいるのにKとQは出会えない。(作中では確か、ある犬だけが二つの世界を自由に行き来できるとあった)

この分裂しながら重なり合った世界を象徴する現象として「火が燃えにくい」ということが起こっている、と解釈した。ベタな言葉でいえばパラレルワールドなのだろうけど、山尾悠子だからそういうポップな感じじゃなくてもっと不条理な。冥界や妖怪のいる世界とも重なり合っているような。

美少年のQはバッカスの巫女に引き裂かれるオルフェウスの面影があり、そう思うとQもKも山頂を目指しているが実は一種の地底=冥界=地獄めぐりをしているようにも思えてくる。

※収録
「飛ぶ孔雀」柳小橋界隈/だいふく寺、桜、千手かんのん/ひがし山/三角点/火種屋/岩牡蠣、低温調理/飛ぶ孔雀、火を運ぶ女1/飛ぶ孔雀、火を運ぶ女2
「不燃性について」移行/眠り/受難/喫煙者たち/頭骨ラボ/井戸/窃盗/富籤/修練ホテル/階段/(偽)燈火/雲海/復路1/復路2/復路3/燈火

特設サイト https://books.bunshun.jp/sp/yamaoyuko

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  >やらわ行
感想投稿日 : 2019年5月16日
読了日 : 2019年5月15日
本棚登録日 : 2019年5月3日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする