川上弘美さんはシャ-ウッド・アンダソンの『ワインズバーグ、オハイオ』がとてもお好きで、ひとつの町を舞台にした連作短編集を「町もの」と呼び、こういう小説が書きたいと思っている…というエッセイを以前読んだのだけれど(http://bungei-bunko.kodansha.co.jp/recommendations/6.html)『このあたりの人たち』はまさにそんな「町もの」。ひとつひとつは短編というより掌編で、次々といろんな人たちが登場する。
序盤は、著者自身の子供時代の回想だろうかと思うような、ちょっと懐かしい感じの、どこの町内にもいそうな「ちょっと変な人」の話が続いたのだけど、読み進めるうちにどんどん「変な人」ではおさまらない壮大な規模の話になっていき、思い出話どころかとんだホラ話レベルのことが大真面目に語られだして、でもそれがすとんと自然に、このあたりではそれが普通なのだ、と納得させられる感じが心地いい。
意地悪なかなえちゃん、普段はかなえちゃんに苛められているが最終的には英雄になり銅像が建つかなえちゃんのお姉さん、嫌われ者の赤井キヨシと犬のクロ、「ざんげの値打もない」がカラオケ十八番の「スナック愛」のおばさん、犬学校の校長先生、子だくさん家庭の末っ子・八郎、アメリカ帰りの川又さんちのドリーとロミなどなど、このあたりの住人たちはとても個性的だけれど、影がふたつある影じじいは生きてるのか死んでるのかわからないし、豚を使ったギャンブルで蠅の王が荒稼ぎするし、鳩鳴病という鳩になってしまう謎の病気が蔓延し、巨大化した毒殺魔の親指姫が引っ越してくるし、六人団地は日本から独立して軍隊を持ち、、革命軍がNHKを占拠して大統領が人質になり政府が転覆したりもする。
1話目の「ひみつ」だけちょっとテイストが違うなと思ったら、これだけ掲載誌が別だった。これとても好き。最終話で単行本時の描き下ろしの「白い鳩」は、かなえちゃんのおねえちゃんが大活躍、謎の臭いものが地球を救う、すごい話だった。
※収録
ひみつ/にわとり地獄/おばあちゃん/事務室/のうみそ/演歌歌手/校長先生/スナック愛/不良/長屋/八郎番/呪文/影じじい/六人団地/ライバル/妖精/埋め部/バナナ/蠅の王/野球ゲーム/拷問/バス釣り/グルッポー/運動会/果実/白い鳩
- 感想投稿日 : 2019年11月11日
- 読了日 : 2019年11月9日
- 本棚登録日 : 2019年11月11日
みんなの感想をみる