屍者の帝国 (河出文庫)

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本棚登録 : 1941
レビュー : 194
yamaitsuさん  >あ行   読み終わった 

架空の人物と歴史上の人物が入り乱れて活躍する19世紀が舞台のスチームパンク・・・という側面では気楽に読める娯楽作なのだけれど、いかんせんテーマが難解、SFとしての部分で脳みそがついていけず、ちょっとしんどい部分もありましたが、概ね楽しく読み終えました。しかしある意味、衒学的というか・・・作者が持っている同等の知識を読者も持っていないと完全には理解できないし、楽しめないのではないかとも思います。せめて巻末か巻頭に、登場人物一覧(元ネタと架空か実在かの区別)と、現実の歴史年表および地図、くらいは付録としてつける親切心は欲しかったかも。

主人公は、かのホームズの相棒ワトソン君(※ストーリー上ではホームズと出会う前)、彼をとりまくおもな架空の登場人物たちは、カラマーゾフの兄弟、ドラキュラ退治のヴァン・ヘルシング、フランケンシュタインの怪物、風と共に去りぬのレッド・バトラー、未来のイブのハダリーなど。実在の人物は沢山登場しますが、主要キャラではバーナビーや、グラント、リットン、ニコライ・フョードロフあたりでしょうか。二部の舞台が西南戦争後の日本なのですが、こちらは得意ジャンルなので大体の背景や人物の立場を把握できているのでわかりやすかった。

ストーリーは、ひらたくいえば「ゾンビもの」でもあります。死体にある種の霊素をインストールすることで復活させる技術が確立していているもう一つの過去、例えばカレル・チャペックが近未来ディストピアの労働力として描いた「ロボット」や「山椒魚」と同じように「屍者」が労働力として社会を支えている世界。彼らがゾンビと違うのは、けして自主的には人間を襲って仲間を増やしたりはしないこと。生前の記憶や意思を持たず命令されたことに従うだけの機械同然だということ。この設定自体は非常にユニークかつ、ありそうで誰もやらなかったなという印象で、この設定だけでいくらでも物語を広げられそうな素材としてとても興味深い。たとえば死体さえあれば、歴史上の有名人や偉人、早逝した女優や俳優、あるいはもっと身近で大切な人を亡くした場合も、いくらでも不死身の屍体として甦らせることができるんですもの。夢が広がります(笑)

しかし最終的なテーマとしては結構普遍的な「死とは何か」「人間を動かすものは魂なのか?」「では魂とは何で、どこにあるのか?」というようなもので、そこはなんというか、本作で重要な役割を果たすメアリ・シェリーの「フランケンシュタイン」の頃から未解決のお題なわけですから、そこに新鮮味はなかったかな。これ言ったら身も蓋もないけど、だったらメアリ・シェリーを読めばいいわけで。

ワトソンが追跡する「ザ・ワン」は、フランケンシュタイン博士の作った怪物=人造人間界のアダムともいうべき存在で、彼とハダリー=未来のイブが対決する場面というのはちょっと面白かったですが、フランケンシュタインの知名度に比べてハダリーと聞いて即座に出典が「未来のイブ」だと気づく読者はどのくらいいるのかわからないけれど、彼女の正体が中途半端な形で終わってしまったのは勿体ない。ラストのアイリーン=ハダリーとかこじつけっぽいし、フライデー=モリアーティ教授?ってのも無理があるような。単に時代が被っているからという理由だったのか他に理由があったのか、レッド・バトラーの登場もやや唐突でした。

伊藤計劃のプロットを引き継いだ円城塔の仕事ぶりには頭が下がるし、それなりに面白く読めたけど、何かが惜しい。基本はエンタメ作品であるはずなのに、これだけのページ数を読み終えて痛快さとか満足感とかが薄いのがちょっと残念でした。

レビュー投稿日
2014年11月24日
読了日
2014年11月23日
本棚登録日
2014年11月6日
3
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